この記事の監修者 司法書士 岩田 剛知(島根県司法書士会 第394号)
最終更新日:2026年9月9日 ※本記事は更新日現在の法令・実務に基づき内容を確認しています。
「遺言を書けば、亡くなったあとのことは全部任せられるのでしょうか」「死後事務委任契約があれば、財産の渡し方も決められますか」。どちらも元気なうちに準備するため、役割が混ざりやすい組み合わせです。
先に結論をいうと、遺言は主に財産を誰に、どのように承継させるかを決めるものです。死後事務委任契約は、葬儀、施設や住まいの手続き、契約の解約など、亡くなったあとに必要になる事務を誰に頼むかを決める契約です。
この記事のポイント
- 遺言と死後事務委任契約は、決める対象が違います
- 死後事務委任契約で、財産を誰に渡すかまで決めることはできません
- 財産の承継と死後の手続きを両方準備したい場合は、二つの内容と担当を分けて確認します
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1. 結論:財産は遺言、手続きは死後事務委任契約
この章でわかること 最初に二つの役割を分けると、準備の抜けが見えます
二つの違いは、「亡くなったあとに残る財産の行き先」を決めるか、「亡くなったあとに誰かが行う手続き」を頼むかです。遺言は財産の承継などについて、本人の意思を法律上の方式で残します。死後事務委任契約は、本人が亡くなったあとに受任者が行う事務を契約で具体化します。
たとえば、遺言で「長男に自宅を相続させる」と決めても、長男が遠方に住んでいて、葬儀社との連絡や賃貸住宅の解約まで担えるとは限りません。反対に、死後事務委任契約で葬儀や解約を頼んでも、その受任者に財産を渡すことにはなりません。
「誰に財産を渡すか」と「誰が手続きをするか」は、同じ人に頼むことも、別の人に頼むこともできます。先に希望と負担を分けて書くと、必要な契約が見えます。
2. 遺言で決められることと遺言執行者の役割
この章でわかること 遺言の内容を実現する人と、生活上の事務を頼む人の範囲を分けます
民法第960条は、遺言は法律に定める方式に従わなければできないと定めています。財産の承継を決めるときは、方式だけでなく、不動産や預貯金を特定できる情報、誰に何を渡すか、遺留分への配慮などを個別に確認します。
民法第960条
遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない。
遺言執行者は、遺言の内容を実現するために必要な行為をする人です。民法第1012条第1項も、その中心を遺言の執行としています。たとえば、遺言に基づく財産の引き渡しや名義変更など、遺言の内容を実現するための手続きが考えられます。
民法第1012条第1項
遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
葬儀や片づけの希望を遺言の付言に書くことはできます。ただし、希望を書いただけで、遺言執行者の法律上の職務に葬儀や住まいの解約まで加わるとは限りません。同じ人に頼む場合も、遺言執行者として行う手続きと、別契約で頼む死後事務を分けて承諾してもらいます。
「この葬儀社に頼んでほしい」「自宅の片づけをしてほしい」と希望を残すこともあります。実行を頼む人、使う費用、担当する範囲は別に確認しておきます。
3. 死後事務委任契約で頼めることと頼めないこと
この章でわかること 契約で頼む事務を具体化し、財産の承継と混ぜない方法が分かります
死後事務委任契約は、法律に名前が書かれた一つの制度ではありません。民法第643条は、法律行為を相手に委託し、相手が承諾することで委任の効力が生じると定めています。
法律行為ではない事務には、民法第656条が委任の規定を準用します。死後事務委任契約は、これらをもとに、亡くなったあとに行う事務を具体的に定める契約です。
民法第653条第1号は、委任者の死亡を委任の終了事由としています。一方、法務省掲載資料では、死亡後の事務処理を委託する合意が紹介されています。
参考:e-Gov法令検索「民法」第653条、法務省「司法書士からみた成年後見制度」
頼める事務の例には、入院費や施設利用料の精算、葬儀社への連絡、火葬・納骨に関する希望の伝達があります。ほかに、賃貸借契約の解約や明け渡し、電気・ガス・水道・通信契約の解約、書類や残金の引き渡しも考えられます。行政や関係先への届出は、届出ごとに提出できる人や必要書類を確認します。契約があれば、すべての届出を受任者だけで行えるという意味ではありません。
反対に、死後事務委任契約だけで財産の行き先を決めることはできません。受任者が財産の所有者になるわけでもありません。財産を誰に渡すか、相続人の間でどのように分けるかは、遺言や相続の手続きで考えます。
家財や預金は相続財産になり得ます。死後事務を頼んだだけで、財産全体を自由に売却・贈与・払戻しできるわけではありません。処分対象、使える資金、必要な権限を分けて確認します。家財整理のための売却や、葬儀費用の支払いが必要な場合も、契約の範囲、相続人への報告、残金の扱いを具体的に決めます。
「死後のことを全部任せる」とだけ書くと、受任者が何をすべきか、どこまで費用を使えるか分からなくなります。葬儀の規模、納骨先、住まいの解約時期、家財を残す条件、ペットの引き継ぎ、連絡先、報告方法を項目ごとに書き出します。
4. 二つの違いを表で整理する
この章でわかること 対象、担当者、財産の扱いを並べて比較できます
名前だけで判断せず、「何を決める書類か」「いつ動く人か」「お金を誰に渡すものか」を並べます。
| 項目 | 遺言 | 死後事務委任契約 |
|---|---|---|
| 主な目的 | 財産の承継など、本人の意思を残す | 亡くなったあとの事務を受任者に頼む |
| 決める内容 | 誰に何を渡すか、遺言執行者など | 葬儀、解約、退去、精算、家財整理など |
| 財産の行き先 | 決められる | 決めるものではない |
| 実行する人 | 遺言執行者、相続人など | 契約で定めた受任者 |
| 作成時の注意 | 方式、財産の特定、遺留分など | 事務の範囲、費用、預託金、報告方法など |
遺言執行者と死後事務の受任者は、同じ人でも別の人でも構いません。ただし、同じ人が二つの役割を引き受けるなら、どの行為をどの書類に基づいて行うかを明確にします。相続人でもある人が担当する場合は、他の相続人への説明や利益相反の有無も確認します。
遺言だけで足りる場合、死後事務だけを検討する場合、両方を準備する場合では、確認する項目が変わります。次章から、書類の組み合わせを決める手順を見ていきます。
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5. 両方を組み合わせるときの整合確認
この章でわかること 財産、担当、費用、引き継ぎ先の食い違いを作らない確認方法です
両方を作るときは、まず財産の承継と死後事務を別の一覧にします。そのうえで、両方の書類に同じ人物名や財産名が出てくる部分を照合します。担当者が同じかどうかより、担当する行為と使えるお金が一致しているかが大切です。
組み合わせを確認する5段階
- 財産を誰に承継させたいか、遺言に書く内容を整理する
- 葬儀、住まい、契約、家財、連絡、精算を死後事務の一覧にする
- 遺言執行者と死後事務の受任者をそれぞれ決める
- 費用の支払元、預託金、残金の引き渡し先を確認する
- 家族や関係先へ、必要な範囲で保管場所と連絡先を伝える
たとえば、自宅を長男に承継させる遺言がある一方、死後事務契約で「自宅内の家財をすべて処分する」と書かれていると、処分の範囲が衝突します。残す物、処分する物、処分を始める時期を分けて書きます。預金も、葬儀費用などに使う資金と、承継させる財産を同じものとして扱わないようにします。
死後事務の受任者が費用を立て替えるのか、預託金から支払うのか、相続人へ請求するのかも確認が必要です。預託金の管理方法や余りの扱いは、事務所ごとの契約条件によって変わるため、一般論で決めません。見積りを取る場合も、契約報酬、公正証書の費用、実費、死後のサポート報酬を分けて質問します。
担当者が同じ場合に確認すること
遺言執行者と死後事務の受任者を同じ人に頼むと、窓口を一つにできるように見えます。しかし、実際には二つの役割があり、根拠となる書類も異なります。たとえば、遺言に基づく不動産の名義変更と、賃貸住宅の解約は、相手先も必要書類も違います。それぞれの依頼内容を一覧にして、どの立場で手続きをするかを確認します。
同じ人が相続人でもある場合は、本人が受け取る財産と、他の相続人へ説明する事務が同時に発生します。費用をどの財産から支払うのか、支払いの記録を誰へ示すのかを先に決めます。相続人の間に意見の違いがある場合は、死後事務の受任だけで解決しようとせず、必要な専門家へつなぎます。
担当者が別の場合に確認すること
担当者を分ける場合は、死亡を知ったときの連絡順と、書類を渡す方法を決めます。死後事務の受任者が葬儀や住まいの解約を先に行い、遺言執行者へ財産関係の資料を引き継ぐことも考えられます。逆に、遺言執行者が保管している通帳や権利証などを、死後事務のためにどこまで使えるかは、契約と権限を確認してから判断します。
連絡先を決めても、連絡を受ける人が変わることがあります。家族との関係、受任者の事務所、施設、葬儀社などの電話番号を更新し、保管場所を一か所にまとめます。変更したときは、古い指示書を残したままにせず、遺言と契約の両方を見直します。
自宅と家財がある場合に確認すること
自宅を特定の人へ渡す遺言を作る場合、家の中にある家具、写真、通帳、重要書類をどうするかも考えます。家財の整理を受任者に頼む場合は、処分前に写真を残すのか、相続人へ確認するのか、残したい品を誰へ渡すのかを決めます。「家財一式」のような書き方だけでは、価値のある物と廃棄物の区別がつきにくくなります。
賃貸住宅では、契約の解約や明け渡しに加えて、残置物の処理が問題になります。法務省・国土交通省のモデル契約条項は、単身高齢者の死亡後に賃貸借契約を解除し、残置物を処理する場面を扱っています。ただし、モデル条項がそのまま個別の死後事務契約になるわけではありません。住まいの契約者、所有者、相続人、受任者の関係を確認します。
参考:法務省・国土交通省「残置物の処理等に関するモデル契約条項」
預金と支払いがある場合に確認すること
葬儀費用、医療費、施設利用料、家賃、公共料金など、亡くなったあとにも支払いが発生します。どの費用を死後事務の対象にするか、領収書を誰へ渡すか、支払い後の残金をどう精算するかを決めます。預金口座を使う場合の金融機関の手続きや提出書類は、口座や相続関係によって異なるため、受任契約だけで自由に払戻しできると考えません。
預託金を用意する場合も、契約時に金額だけを見ると不足や余りが生じます。葬儀、退去、廃棄、郵送など、実費の項目を並べ、追加が必要になったときの連絡方法を決めます。預託金が余った場合の返還先や相続財産への戻し方も、契約前に書面で確認します。
存命中の判断力低下や財産管理は、死後事務委任契約の対象ではありません。任意後見や財産管理の委任など、別の準備を検討します。終活全体の順番は生前対策は何から始めればよいかの記事でも整理しています。
6. 三つのケースで選び方を考える
この章でわかること 自分の不安が財産、手続き、両方のどこにあるかを見分けます
遺言を中心に考えるケース
相続人や財産の承継先が明確で、近くに住む家族が葬儀や解約を担えるなら、まず遺言の内容と遺言執行者を検討します。ただし、家族が実際に動けるかは別に確認します。遺言に付言を書く場合も、希望と法的な承継内容を分けて記載します。
死後事務を中心に考えるケース
財産の承継先は決まっていても、死亡の連絡を受ける人、葬儀・納骨の希望を伝える人、住まいを解約する人がいない場合があります。親族が遠方にいる、賃貸住宅や施設の手続きが必要、といった事情があれば、死後事務の受任範囲を具体化します。財産の行き先を決める必要がある場合は、遺言も別に検討します。
両方を準備するケース
特定の人に財産を渡したい一方、手続きは専門家に頼みたい場合は、遺言と死後事務委任契約を分けて作ります。遺言執行者と死後事務の受任者が別なら、引き継ぐ書類、連絡の順番、費用の報告先を決めます。同じ人なら、二つの役割を引き受ける承諾と報酬を確認します。
相続人間の交渉や裁判の代理は、司法書士の死後事務として当然に含まれるものではありません。争いがある場合は、弁護士の分野です。当事務所への相談が窓口となる場合も、必要に応じて提携する弁護士の紹介を受ける形になります。
費用を比べるときは、安い総額だけで選びません。契約書を作る報酬、遺言執行の報酬、死後事務のサポート報酬、預託金、公証人手数料や実費を分けます。事務所の料金や受任範囲が自分の希望に合うかは、見積りと契約前の説明で確認します。
選択を急ぐ必要はありません。まず、亡くなった直後に連絡が必要な相手、数日以内に決めたいこと、後から整理できることに分けます。死亡の確認、葬儀社への連絡、施設や賃貸住宅とのやり取り、家財の扱い、財産の承継は、同じ日に一人で完了するとは限りません。時期ごとの担当を決めると、家族や受任者が迷いにくくなります。
7. 契約や遺言を作る前の確認事項
この章でわかること 相談前に整理すべき財産、事務、担当、費用を確認できます
| 確認する項目 | 書き出す内容 |
|---|---|
| 財産と承継 | 不動産、預貯金、保険、負債、誰に何を渡したいか |
| 死後事務 | 葬儀、納骨、住まい、家財、契約解約、ペット、連絡 |
| 担当と引き継ぎ | 遺言執行者、死後事務受任者、相続人への報告先 |
| 費用と資金 | 契約報酬、公正証書費用、実費、預託金、残金の扱い |
| 書類の整合 | 自宅・預金・家財の指定が、二つの書類で食い違っていないか |
遺言の方式、遺言執行者の権限、死亡後も続ける死後事務の範囲は、個別に確認します。遺贈と死後事務の区別や、遺留分への配慮も同じです。相談時には、家族関係と財産の一覧を見せられるようにします。
一覧は完璧でなくても構いません。不動産の所在地、預金口座の金融機関、保険証券や契約書の保管場所など、分かる範囲から書き出します。分からない項目を空欄のまま示しておけば、調査が必要な部分を相談の最初に確認できます。本人しか知らない連絡先や暗証情報は、安全な保管方法も含めて別に相談します。
死後事務は司法書士の独占業務ではありません。行政書士、弁護士、民間のサービス事業者など、受任者の選択肢があります。資格名だけで決めず、どの事務を誰が担当し、預かったお金や書類をどう報告するかを確認します。
死後事務委任契約の基本は「死後事務委任契約とは?頼めること・費用・遺言との違い」をご覧ください。遺言の方式は「自筆と公正証書、どちらの遺言にするか決める3つの基準」で比較しています。身元保証との関係は身元保証人がいないときの記事で確認できます。おひとりさまの準備の順番はおひとりさまの終活は何から始めるかで整理しています。
相談前に、財産と死後事務を一枚に書き出しておくと、必要な準備を具体的に話せます。→ 相談内容を送る
8. よくある質問
この章でわかること 二つの書類を作るときに迷いやすい点を確認できます
遺言に「葬儀はこのように」と書けば、死後事務委任契約はいりませんか?
遺言に希望を書くことはできますが、希望を書いたことだけで、葬儀や住まいの解約を実行する担当者と費用が決まるとは限りません。誰に何を頼むかを具体的に決めたい場合は、死後事務委任契約の要否を別に検討します。
死後事務委任契約を結べば、受任者に財産を渡せますか?
死後事務委任契約は、手続きを頼む契約です。受任者に財産を承継させたい場合は、遺言や別の契約の問題として整理します。死後事務のために預けた金銭の残りをどうするかも、契約書で確認が必要です。
遺言執行者に死後事務も頼めますか?
遺言執行者の中心的な役割は、遺言の内容を実現することです。死後事務まで同じ人に頼めるかは、本人の意思、契約の内容、受任者の業務範囲によって変わります。遺言執行者に一括で任せられると決めつけず、役割と費用を確認します。
二つとも公正証書にする必要がありますか?
どちらも一律に公正証書が必要というわけではありません。遺言は種類ごとの法定方式を確認し、死後事務委任契約は、内容を証拠として残す方法や公証役場での手続きを個別に検討します。方式の選択は、財産、家族関係、頼みたい事務を確認して判断します。
判断力が落ちたあとの財産管理も死後事務で頼めますか?
死後事務委任契約は、亡くなったあとに行う事務を扱う契約です。判断力が低下した時期の財産管理や法律行為の代理は、任意後見や財産管理の委任など別の準備を検討します。開始時期と担当者を、死後事務とは分けて考えます。
9. まとめ
- 遺言は財産の承継、死後事務委任契約は亡くなったあとの手続きが中心です
- 遺言執行者の役割と死後事務の受任範囲は、同じ人でも別の人でも明確に分けます
- 家財や預金は相続財産になり得るため、処分対象、資金、権限を確認します
- 遺言だけでよいか、死後事務だけを検討するか、両方が必要かを家族構成と負担から判断します
- 方式、費用、預託金、遺留分、個別の受任範囲は相談時に確認します
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判断に迷ったときは
「まだ遺言を書くか決めていない」という段階でも構いません。財産の承継と死後事務を分けて、必要な準備から一緒に整理します。
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