この記事の監修者 司法書士 岩田 剛知(島根県司法書士会 第394号)
最終更新日:2026年8月20日 ※本記事は更新日現在の法令・実務に基づき内容を確認しています。
「県外で働いていて、松江の実家に一人で暮らす親が心配」。そう感じて調べ始める方は少なくありません。
任意後見契約を結んでおけば安心、と思われがちです。ところが任意後見が働き始めるのは、判断力が下がって家庭裁判所が監督人を選んだときです。契約した日からではありません。
その空白を埋めるのが、見守り契約と財産管理委任契約です。それぞれ何ができて何ができないのか、順番に整理します。
この記事のポイント
- 見守り契約は「暮らしの変化に気づく」ための契約。財産を動かす権限は付きません
- 財産管理委任契約は「財産を任せる」契約。判断力が下がる前の段階から使えます
- どちらも法律に名前のある制度ではなく、中身は契約書に書いた範囲で決まります
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結論:見守り契約は「気づく」ための契約です
見守り契約とは、定期的な電話や訪問で本人の健康状態と暮らしぶりを確かめ、変化に早く気づくための契約です。
財産を動かす権限は付きません。通帳を預かることも、代わりに支払いをすることもありません。
財産を任せたいときに結ぶのが、財産管理委任契約です。預貯金の出し入れや支払いなどの事務を、代わりに行ってもらいます。
この契約は、判断力が下がることを条件にしていません。足腰が弱って銀行へ行きづらい、という段階から使えます。
そして、あらかじめ任意後見契約を結んでおけば、判断力が下がったあとを任意後見契約が担当します。結んでいなければ、家庭裁判所が後見人を選ぶ法定後見になります。3つは競合しません。支える時期が違うだけです。
どれも法律に「見守り契約」という名前で載っている制度ではありません。民法の委任・準委任を土台にした、当事者どうしの契約です。だから中身は、契約書に書いた範囲で決まります。
民法第643条
委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。
参考:e-Gov法令検索「民法」第643条(法律行為でない事務の委託には、同じ規定が第656条により準用されます)
「制度が用意されているから安心」ではなく、「契約書に書いたことしか起きない」。ここが出発点になります。
順番も大切です。判断力が下がってからでは、どの契約も結べません。契約はご本人の意思で結ぶものだからです。
「まだ元気だから要らない」と感じているうちが、いちばん選択肢の多い時期になります。
見守り契約でできること・できないこと
見守り契約でまず決めるのは、連絡の方法と頻度です。月に1回の電話、3か月に1回の訪問、といった形で契約書に書きます。
目的は監視ではありません。ふだんと違う様子に、早い段階で気づくことです。
気づける変化と、この契約では担えないことを並べると次のようになります。
| 見守り契約で気づけること | 見守り契約では担えないこと |
|---|---|
| 受け答えの変化、同じ話の繰り返し | 預貯金の引き出し・振込 |
| 郵便物がたまっている、支払いの滞り | 不動産の売却や賃貸の手続き |
| 不審な訪問販売や勧誘を受けた形跡 | 入院・入所のときの身元保証人になること |
| 住まいの荒れ、食事や服薬の乱れ | 医療行為への同意 |
| 介護サービスを使い始める時期の見きわめ | 役所や金融機関での代理手続き |
右の列は、別の備えで埋めます。財産を動かすには財産管理委任契約、判断力が下がったあとは任意後見契約が要ります。
身元保証人の役割も、見守り契約とは別のものです。入院や施設入居で保証人を頼める人がいない場合の備えは、終活サポートのページにまとめています。
頻度に決まりはありません。ただ、間隔が空きすぎると気づくのが遅れます。逆に細かすぎると、お互いに負担が続きません。
目安として、電話は月1回、訪問は3か月に1回から始め、状況が変わったら見直す。この形にしておくと、無理なく続けやすくなります。
始める時期を迷う方も多いところです。判断の材料になるのは年齢よりも、次のような変化が出てきたかどうかです。
同じ話を繰り返すようになった。通帳や印鑑の置き場所が分からなくなった。家の中が以前より片づかなくなった。こうした兆しが出たら、結んでおく値打ちがあります。
もうひとつ知っておきたいのは、この契約が本人の死亡で終わることです。委任の終了事由が民法に定められています。
民法第653条
委任は、次に掲げる事由によって終了する。
一 委任者又は受任者の死亡
亡くなったあとの手続きは、遺言と死後事務委任契約が担当します。生前の見守りだけを整えても、その先はつながりません。
財産管理委任契約でできること・できないこと
財産管理委任契約は、財産に関する事務を代わりに行ってもらう契約です。任せる範囲を、契約書で一つずつ決めます。
よく入る項目は次のとおりです。
- 預貯金の出し入れ、公共料金や税金の支払い(金融機関ごとに所定の手続きが要ります)
- 年金・保険・給付金に関する手続き(窓口によって委任状の様式が違います)
- 医療費・介護費の支払い(医療行為への同意までは任せられません)
- 賃貸物件の管理など不動産に関する事務(売却まで含めるかは慎重に決めます)
- 役所への各種届出(本人でなければできない届出もあります)
不動産の売却を入れるかどうかは、分けて考えたほうが安全です。住まいを手放す判断は、金額も影響も大きくなります。
売却の権限まで先に渡しておくのではなく、そのときあらためて相談する形にしておく。そう決めておくご家庭もあります。
注意したいのは、この契約に家庭裁判所の関与がないことです。任意後見のような監督人も付きません。
誰に頼むか、報告をどう受けるかを決めないまま始めると、あとで家族の間の火種になります。
親のお金を子が管理する場合はとくに、通帳の写しと領収書を残す形にしておくと安全です。年に1回、ほかの家族へまとめて報告するところまで契約書に書いておくと、疑いが生まれにくくなります。
もう1点、金融機関が委任状をどこまで受け付けるかは、機関ごとに扱いが違います。よく使う金融機関には、契約の前に取り扱いを確かめておくと確実です。
そして、財産の行き先を決めるのはこの契約ではありません。それは遺言の役目です。生前対策としてどこまで整えるかは、生前対策のページもあわせてご覧ください。
誰に頼むか、どう選ぶか
頼む相手は、家族や親族でも、司法書士などの専門職でも、民間のサービスでも構いません。それぞれ得意な部分が違います。
家族・親族に頼む。報酬を抑えられ、ふだんの付き合いの延長で続けやすい形です。一方で、ほかのご家族から「何をしていたのか」と問われる場面が出ます。頻度と報告の方法を書面にしておくと、その場で答えられます。
司法書士などの専門職に頼む。見守りから財産管理、任意後見までをひと続きで組めるのが利点です。判断力が下がったときに監督人選任の申立てへ動ける点も含めて設計できます。報酬は発生します。
民間のサービスを使う。センサーや電話による安否確認、配食にあわせた声かけなど、見守りに近い商品が各社から出ています。ただし、これらは契約で決めた事務を代わりに行うものではありません。名前が似ていても中身が違うので、何をしてくれるサービスなのかを確かめてください。
どれを選ぶ場合も、契約の前に見ておきたい点は共通しています。
- 契約書があるか。口約束や申込書だけで始まっていないか
- 報酬と実費が分けて示されているか。月額に何が含まれるかが書いてあるか
- 報告の方法と頻度が決まっているか。誰に報告するかまで書いてあるか
- やめるときの手順と、前払いした分の扱いが書いてあるか
- お金を預ける仕組みがある場合、その保管方法と、返してもらう条件が書いてあるか
この5点が書面で確かめられれば、相手が誰であっても大きな失敗は起きにくくなります。逆に、どれか一つでも「あとで決めましょう」となる場合は、その場で契約しないほうが安全です。
もう一点、受け手のほうが先に亡くなる、あるいは体調を崩す場合にも備えておきます。予備の受任者を決めておくか、そのとき改めて選び直す手順を書いておくと、契約が空白になりません。
ご家族の事情に合わせてどう組むかは、生前対策のご相談ページからお問い合わせください。
3つの契約は、支える時期が違う
見守り契約・財産管理委任契約・任意後見契約は、並べて比べると役割がはっきりします。
| 見守り契約 | 財産管理委任契約 | 任意後見契約 | |
|---|---|---|---|
| いつ効力が出るか | 契約したとき | 契約したとき(開始時期を別に定めることもできる) | 家庭裁判所が任意後見監督人を選んだとき |
| 判断力との関係 | 判断力があるうちに結ぶ | 判断力があるうちに使う | 判断力が下がってから働く |
| 主な中身 | 定期的な連絡・訪問と状況の確認 | 財産に関する事務の代理 | 生活・療養看護・財産管理の事務の代理 |
| 契約の方式 | 決まりはない(書面にしておく) | 決まりはない(任意後見契約と同じ公正証書にまとめることもできる) | 公正証書でなければならない |
| 監督する人 | いない | いない | 任意後見監督人 |
| 根拠 | 民法の準委任 | 民法の委任 | 任意後見契約に関する法律 |
任意後見契約だけが、方式まで法律で決められています。
任意後見契約に関する法律第3条
任意後見契約は、法務省令で定める様式の公正証書によってしなければならない。
時間の流れに置き直すと、次の図のようになります。
なぜ任意後見とセットで結ぶのか
任意後見契約は、公正証書を作った日には働き始めません。効力が出るきっかけは、家庭裁判所による任意後見監督人の選任です。
任意後見契約に関する法律第4条第1項
任意後見契約が登記されている場合において、精神上の障害により本人の事理を弁識する能力が不十分な状況にあるときは、
家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族又は任意後見受任者の請求により、任意後見監督人を選任する。
契約から効力発生までは、何年も空くことがあります。60代で契約し、80代で監督人が選ばれる。そういう順序になります。
この空白の間、任意後見を引き受けた人には、本人を助ける権限がありません。
それだけではありません。本人の判断力が下がったことに誰も気づかなければ、監督人を選ぶ申立て自体が遅れます。契約書が引き出しに眠ったまま、という形が起きます。
申立てができる人も、条文で決まっています。本人、配偶者、四親等内の親族、任意後見を引き受けた人です。
つまり、近くにいる人が誰も変化に気づかなければ、動ける人がいないまま時間が過ぎます。おひとりで暮らしている方ほど、この空白が長くなりやすいところです。
見守り契約を結んでおくと、変化に気づいた側から申立てへ動けます。財産管理委任契約を併せておけば、体が動かなくなった段階から支払いを引き継げます。
判断力が下がったところで任意後見へ切り替える。この組み立てを、実務では移行型と呼びます。
逆に、見守り契約や財産管理委任契約だけを結び、任意後見契約を結ばないとどうなるか。判断力が下がったあとに残る道は、法定後見だけになります。
法定後見では、支援する人を家庭裁判所が選びます。候補者を挙げることはできますが、そのとおりに選ばれるとは限りません。「誰に任せるかを自分で決めておく」という目的は、そこで薄れてしまいます。
どの契約が要るかは、家族構成と財産の中身で変わります。3つとも結ぶ方もいれば、見守り契約だけで足りる方もいます。
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費用の内訳と、契約の前に決めておくこと
費用は「専門職への報酬」と「公証役場や法務局へ払う実費」に分かれます。混ざったまま見積もると、高いのか安いのか判断できません。
| 何にかかるか | 金額 | 払う先 |
|---|---|---|
| 任意後見契約サポート | 100,000円(税込110,000円)〜 | 当事務所 |
| 見守り契約・財産管理委任契約の契約書作成 | 個別のお見積り | 当事務所 |
| 公正証書の作成手数料 | 1契約につき13,000円(3枚を超えると1枚300円加算) | 公証役場 |
| 法務局へ納める収入印紙 | 2,600円 | 法務局 |
| 登記の嘱託手数料 | 1,600円 | 公証役場 |
| 正本・謄本の作成手数料 | 電磁的記録は1通2,500円ほか | 公証役場 |
| 任意後見監督人の報酬(効力が出たあと) | 家庭裁判所が決める | 監督人 |
参考:日本公証人連合会「Q22 任意後見契約公正証書を作成する費用は、いくらでしょうか?」
財産管理委任契約を同じ公正証書に併せて入れる場合は、その分の手数料が別に加わります。公証人に出張してもらう場合も加算があります。
島根県内の公証役場は、松江公証役場と浜田公証役場の2か所です。
見落としやすいのが、効力が出たあとに続く任意後見監督人への報酬です。金額は家庭裁判所が決めます(任意後見契約に関する法律7条4項・民法862条)。契約時の費用だけで比べると、この分が抜けます。
当事務所の料金の一覧は料金のページにあります。見守り契約と財産管理委任契約は、頻度と任せる範囲で変わるため、ご事情をうかがったうえでお見積りします。
見積りをもらうときは、契約時に一度だけかかる分と、毎月かかる分を分けて出してもらってください。合計額だけを比べると、続く負担が見えません。
公正証書にする場合は、公証役場へ払う実費が別に載っているかも確かめます。報酬に含まれているのか、別途なのかで総額が変わります。
契約書を作る前に、次の5つを決めておくと話が早く進みます。
- 誰に頼むか —— 家族、親族、専門職のいずれか。複数を組み合わせることもできます。
- 何を任せるか —— 見守りだけにするか、財産管理まで含めるかを分けて考えます。
- どのくらいの頻度にするか —— 電話は月1回、訪問は3か月に1回、といった形で書き込みます。
- 報酬をどうするか —— 無報酬にすると長続きしないことがあります。金額と支払い方を決めます。
- やめるときどうするか —— 解約の申し出方法と、引き継ぎの手順を決めておきます。
この5つは、専門職に頼む場合だけの話ではありません。家族に頼むときこそ、書いて残しておく値打ちがあります。
よくある質問
Q. 見守り契約は、家族に頼んでもいいですか?
A. 構いません。遠方に住むお子さんが受任者になる形もあります。ただし家族に頼む場合は、頻度と報告の方法を書面にしておくことをおすすめします。あいまいなままだと、ほかのご家族から「何をしていたのか」と問われたときに答えられなくなります。
Q. 財産管理委任契約があれば、任意後見契約はいらないのでは?
A. 判断力が下がると、財産管理委任契約だけでは足りなくなります。委任した本人が内容を理解できない状態では、受任者の行為をだれも確かめられないためです。判断力が下がったあとに備える契約が任意後見であり、両方を組み合わせる形が実務では多く使われます。
Q. 認知症と診断されたあとでも契約できますか?
A. 原則として難しいとお考えください。契約はご本人の意思で結ぶものなので、契約の内容を理解できる状態であることが前提になるためです。認知症の診断が出たあとは、この前提を満たしにくくなります。ごく軽度で、契約の意味を理解できると認められる場合に限り、例外的に結べることもあります。ただしその判断は慎重に行われるため、多くの場合は法定後見の申立てを検討することになります。
Q. 一度結んだ契約は、あとから変えたりやめたりできますか?
A. できます。見守り契約と財産管理委任契約は、契約書に定めた方法で解約できます。任意後見契約は、効力が出る前と出たあとで手続きが変わります。監督人が選ばれる前なら、公証人の認証を受けた書面でいつでも解除できます。選ばれたあとは、正当な事由がある場合に限り、家庭裁判所の許可を得て解除する形になります(任意後見契約に関する法律9条)。
Q. 見守り契約を結ぶと、亡くなったあとの手続きもしてもらえますか?
A. 別の契約が要ります。委任契約はご本人が亡くなると終わるためです。葬儀や役所への届出、住まいの片づけなどを任せたい場合は、死後事務委任契約で決めておきます。財産の行き先は遺言で決めます。
Q. 3つとも結ばないといけませんか?
A. そうとは限りません。近くに家族がいて日常的に行き来があるなら、任意後見契約だけを先に結んでおく形もあります。逆に、遠方にしか身内がいない方や、おひとりで暮らしている方は、見守り契約を入れておく値打ちが大きくなります。ご事情によって組み合わせは変わります。
Q. 見守り契約を結ぶと、家に上がり込まれるのでしょうか?
A. 訪問の有無も頻度も、契約書で決めます。電話だけにすることもできます。訪問する場合も、日時を事前に決めて伺う形が一般的です。生活を監視する契約ではありません。
まとめ
- 見守り契約は、定期的な連絡と訪問で暮らしの変化に気づくための契約。財産を動かす権限は付かない
- 財産管理委任契約は、財産に関する事務を任せる契約。判断力が下がる前の段階から使える
- 任意後見契約は、家庭裁判所が監督人を選んだときから効力が出る。契約した日からではない
- 3つは競合せず、支える時期が違う。見守りと財産管理で空白を埋め、任意後見へ切り替える形が使われている
- 費用は報酬と実費に分けて確かめる。効力が出たあとに続く監督人の報酬も見落とさない
迷ったら、まず「何が起きたときに、誰に動いてほしいか」を書き出してみてください。それが決まっていれば、どの契約を組み合わせるかは選べます。
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財産の行き先を決めておくなら、遺言の形式選びが次の論点になります。
判断力が下がると、実家の売却や修繕も止まります。
判断に迷ったときは
「まだ早いかもしれない」と感じる段階でも構いません。見守り契約だけを先に結び、財産管理や任意後見は様子を見ながら決める、という進め方もできます。その場でご契約をお願いすることはありません。
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