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農地を相続したら、農業委員会への届出が必要です(登記とは別)【司法書士が解説】

農地相続後に必要な農業委員会への届出と期限を解説する記事のアイキャッチ

この記事の監修者 司法書士 岩田 剛知(島根県司法書士会 第394号)

最終更新日:2026年9月19日 ※本記事は更新日現在の法令・実務に基づき内容を確認しています。

亡くなった親御さんの名義に、田んぼや畑が残っていることがあります。相続登記は知っていても、それとは別に農業委員会への届出が必要だと知らずに過ごしている方が少なくありません。届出の時期や提出方法は、農地がある市町村の案内を確認する必要があります。相続登記との違い、相続人が複数いる場合の届出、耕作しない農地の選択肢を順番に説明します。

この記事のポイント

  • 農地の相続そのものに農地法3条の許可はいりませんが、農業委員会への届出は別に必要です。届け出ないと過料の対象になることがあります
  • 相続登記(法務局)とこの届出(農業委員会)は別の手続きです。両方が必要になります
  • 耕作する予定がない場合は、農地バンクへの貸付や農業委員会への相談という選択肢があります

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1. 結論:農地の相続に許可はいりませんが、届出は必要です

この章でわかること 農地の相続は許可不要ですが、農業委員会への届出は必要です

農地とは、耕作の目的に使われている土地のことです(農地法2条1項)。休耕中であっても、耕作に使う目的で持っている土地であれば農地として扱われます。

亡くなった方の財産は、民法896条により、相続が始まった時点で相続人へ自動的に引き継がれます。田んぼや畑も同じです。

農地を売買や贈与でやり取りするときは、農地法3条にもとづき農業委員会の許可が必要です。相続はこの許可の対象になりません。売買のような当事者どうしの契約ではなく、法律上当然に権利が移る手続きだからです。

ただし、許可がいらないことと、何もしなくてよいことは別です。農地又は採草放牧地の権利を取得した人は、農地法3条の3にもとづき、農業委員会への届出が必要になります。採草放牧地とは、家畜のえさになる草を採ったり、家畜を放牧したりする目的で使われている土地のことです。

農地法第3条の3第1項

農地又は採草放牧地について第三条第一項本文に掲げる権利を取得した者は、同項の許可を受けてこれらの権利を取得した場合、

同項各号(第十二号及び第十六号を除く。)のいずれかに該当する場合その他農林水産省令で定める場合を除き、

遅滞なく、農林水産省令で定めるところにより、その農地又は採草放牧地の存する市町村の農業委員会にその旨を届け出なければならない。

参考:e-Gov法令検索「農地法」第3条の3

遺産分割協議や、家庭裁判所の調停・審判によって農地を誰が引き継ぐか決めた場合も、この届出は必要です。農地法3条1項12号は許可が不要な場合として遺産の分割等を挙げていますが、届出義務までは免除されません。

農地法がこうした届出を求めているのは、耕作されない農地が増えることを防ぎ、国内の農地を計画的に利用するためです。相続をきっかけに、農地の所在や利用状況を農業委員会が把握できるようにする意味もあります。

2. 届出時期の目安と、忘れた場合の過料

この章でわかること 法律は「遅滞なく」と定め、具体的な案内は自治体ごとに異なります

農地法3条の3は、権利を取得した人に「遅滞なく」届け出るよう求めています。「遅滞なく」とは、正当な理由なく手続きを先延ばしにしないという意味です。法律には「10か月以内」という一律の期限は書かれていません。

一方、農林水産省や各自治体は、実務上の目安として「おおむね10か月以内」と案内しています。ただし、いつから数えるかという表現は同じではありません。農林水産省の案内は「相続発生日から」です。松江市と出雲市は「権利を取得したことを知った時点から」としています。安来市は「権利取得を知った日、または被相続人の死亡を知った日から」と案内しています。

農地がある市町村の農業委員会へ、提出時期と必要書類を確認してから進めるのが確実です。

参考:農林水産省「農家の皆さま・農地を相続した方へ」松江市出雲市安来市

届け出ずに放置したり、事実と違う内容を届け出たりすると、10万円以下の過料の対象になることがあります。

農地法第69条
第三条の三の規定に違反して、届出をせず、又は虚偽の届出をした者は、十万円以下の過料に処する。

参考:e-Gov法令検索「農地法」第69条

届出をまだ出していないことに気づいた場合は、農地がある市町村の農業委員会へ早めに相談してください。遅れて提出する場合の扱いや必要書類は、個別の事情と自治体の運用によって異なります。

農地の届出時期は、相続登記の3年という期限とは別です。「登記が済んでいるから届出も終わっている」とは限りません。

3. 相続登記の義務化と混同しないでください

この章でわかること 相続登記と農地の届出は窓口も期限も別の手続きです

2024年からの相続登記の義務化と、この届出を同じ手続きだと考えている方がいますが、窓口も期限も別の制度です。

相続登記のニュースや案内は広く知られるようになりましたが、農地法の届出は知名度が低く、相続登記さえ済ませれば手続きは終わったと考えてしまう方が少なくありません。実際には、法務局への申請と農業委員会への届出は、それぞれ別の窓口へ別の書類を出す必要があります。

相続登記 農地法3条の3の届出
窓口 法務局 農業委員会
手続時期 取得を知った日から3年以内 法律は「遅滞なく」。自治体の案内を確認
対象 不動産全般(農地も含む) 農地・採草放牧地
守らなかった場合 10万円以下の過料 10万円以下の過料

相続登記の期限は不動産登記法76条の2で、取得を知った日から3年以内と定められています。詳しくは相続登記の3年ルール、いつまでに何をすればいいのかをご覧ください。

農地の名義変更にも登録免許税や書類がかかります。費用の目安は相続登記の費用相場はいくら? 登録免許税・実費・司法書士報酬の内訳で説明しています。

相続登記と農地の届出、両方が必要です 相続登記農地の届出 窓口 法務局 期限 知った日から3年以内 過料 10万円以下 窓口 農業委員会 届出時期 遅滞なく(自治体へ確認) 過料 10万円以下 どちらか一方では終わりません。両方の手続きが必要です
相続登記(法務局)と農地法の届出(農業委員会)は、窓口も手続時期も別です

どちらか一方だけを済ませて安心してしまう方が多いのが実情です。相続登記のご相談では、田んぼや畑が財産に含まれていないかもあわせて確認できます。相続登記が終わったあとで、農地の届出をまだ済ませていないことに気づく方も少なくありません。気づいた時点で相談いただければ、あらためて届出の内容を整理できます。

4. 相続人が複数いて、まだ誰が継ぐか決まっていない場合

この章でわかること 遺産分割の前後で、それぞれ届出が必要になる場合があります

相続人が2人以上いる場合、亡くなった方の財産は、遺産分割が終わるまで相続人全員の共有になります(民法898条1項)。相続財産はその共有に属すると定められており、農地も例外ではありません。

農林水産省の事務処理要領では、相続開始時の共有取得と、遺産分割後の取得は、それぞれ届出の対象と説明されています。共有状態の届出は、複数の相続人が連名で提出することもできます。すでに遺産分割が終わっている場合は、共有状態で取得した旨の届出を省略できる場合があります。

参考:農林水産省「農地法関係事務処理要領」

ただし、提出の順序や必要書類は地域によって異なります。安来市は、遺産分割が終わっていない場合は相続人全員で届け出、分割後に再度届け出るよう案内しています。一方、出雲市は相続登記後の提出を案内しています。松江市の死亡手続ガイドにも、相続登記後に手続きするとの案内があります。農地がある市町村の農業委員会に、誰がどの段階で届け出るかを確認してください。

実際には、相続人の中に農業を続けるつもりの人がいないという状況がよくあります。田んぼや畑をどうするか、話し合いが進まないことも珍しくありません。誰も使わない農地は、草刈りなどの管理の手間が残ります。

例:相続人が3人で、実家の近くに住んでいるのが1人だけというケースでは、農業をする人が決まらないまま話し合いが長引くことがあります。このような場合は、農業委員会へ現在の状況を伝え、誰がどのように届け出るかを確認しましょう。農地の使い道は、届出とは分けて検討できます。

相続人の1人が農地を引き継ぎ、他の相続人には現金で調整するという方法(代償分割)を選ぶこともできます。近くに住む人がいなくても、名義を1人にまとめておくと、その後の届出や管理の窓口がはっきりします。ただし、代償として支払う金額の目安は、農地の評価額をもとに相続人どうしで話し合って決める必要があります。

誰がどの財産を引き継ぐかが決まったら、その内容を遺産分割協議書にまとめます。農地の届出も相続登記も、この協議書をもとに進めることになります。農地だけを切り離して先に決めるのではなく、他の財産とあわせて一度に話し合っておくと、後から書類を作り直す手間が減ります。

こんな方は、早めのご相談をおすすめします

  • 相続人の中に、農業を続ける人がいない
  • 田んぼや畑がどこにあるか、正確な場所を把握していない
  • 相続人どうしで、これまで農地について話し合ったことがない
  • 農地のほかにも、実家や預貯金など複数の財産があり、まとめて整理したい

相続人どうしの話し合いがまとまらない場合、家庭裁判所へ遺産分割調停を申し立てる方法もあります。当事務所では申立書類の作成をお手伝いしていますが、話し合いそのものの仲裁や、対立が深まった場合の交渉は行っていません。対立が大きい場合は、提携する弁護士をご紹介します。財産の分け方に納得がいかない方は、遺留分とは? 遺言があっても渡さざるをえない取り分もあわせてご確認ください。

5. 耕作する予定がない農地は、放棄ではなく貸付や相談という選択肢があります

この章でわかること 耕作しない農地は、放棄ではなく貸付や相談という道があります

届出をしたあと、その農地を自分で使わない場合も選択肢があります。農地だけを選んで手放すことはできません。相続放棄は預貯金や自宅を含めた遺産全体が対象で、農地だけを除いて放棄することはできないためです(民法939条)。相続の放棄をした人は、その相続に関して初めから相続人でなかった扱いになるため、農地だけ残して他の財産は受け取る、ということはできません。

相続そのものを望まない場合は、期限を確認してから判断してください。詳しくは相続放棄の3か月はいつから数える? 過ぎた場合の対処もをご覧ください。

相続放棄をした時点で農地を現に管理している場合は、次の相続人や相続財産清算人へ引き渡すまで、保存する義務が残ることがあります(民法940条)。放棄すれば直ちに管理と無関係になるとは限りません。

参考:e-Gov法令検索「民法」第940条

届出をしただけで、その後ずっと放置していると、別の問題が起きることもあります。農地法には、耕作されておらず今後も見込みがない農地(遊休農地)についての制度があります。農業委員会が所有者へ、農業上の利用意向を調査する制度です(農地法32条1項・利用意向調査)。届出さえ済ませれば終わり、というわけではなく、その後の管理も見すえておく必要があります。

参考:e-Gov法令検索「農地法」第32条

耕作しない農地は、農地中間管理事業(農地バンク)へ貸し出す方法があります

都道府県が指定する農地中間管理機構が、農地を借り受け、耕作を希望する人へ貸し出す仕組みです。農地中間管理事業の推進に関する法律(平成25年法律第101号)にもとづく制度で、相談窓口は農地がある市町村や農業委員会、農地中間管理機構です。貸付が成立しても、所有権は相続人に残ります。農地の場所や状態、地域計画、借り手の有無などによっては貸付に至らないため、借り手が見つかるとは限りません。

  1. 窓口へ相談 —— 農地がある市町村や農業委員会へ、貸付を希望していることを伝えます。
  2. 農地の確認 —— 所在や面積、現在の利用状況、地域計画との関係などを確認します。
  3. 借り手との調整 —— 貸付の対象となる場合は、借り手や条件の調整が進みます。
  4. 契約と貸付 —— 借り手と条件が整った場合に、必要な手続きを経て貸付が始まります。
農地バンクへ貸し出す 届出だけして持ち続ける 相続放棄をする
農地の管理 貸付成立後は借り手が耕作・管理する 自分で草刈りなどの管理が必要 次順位の相続人などに移る場合がある。引渡しまで保存義務が残ることもある
農地以外の財産 影響しない 影響しない 相続財産全体を受け取れない
主な窓口 農業委員会・農地中間管理機構 農業委員会(届出のみ) 家庭裁判所
時期 早めに窓口へ相談 法律は「遅滞なく」。自治体の案内を確認 原則として自己のために相続開始があったことを知った時から3か月以内

まとめてご相談いただけます。相続登記の手続きとあわせて、届出が必要かどうかの整理をお手伝いします。→ 届出の要否を相談する

農地バンクへの貸付を考えている場合も、まず農地がある市町村の窓口へ相談してください。相続放棄は、農地以外の財産も受け取れなくなる手続きです。農地を持ち続ける場合や貸し出す場合とは、分けて考える必要があります。

使う予定のない実家や土地をどうするかは、誰も住まない実家、名義変更と売却どちらが先かでも説明しています。

6. 山林も一緒に相続した場合は、別の届出が必要になることがあります

この章でわかること 山林を含む場合は、農地とは別に市町村への届出が必要です

亡くなった方の遺産に、田んぼや畑だけでなく山林が含まれることもあります。山林の届出は、農地の届出とは根拠になる法律も窓口も別です。森林法にもとづき、地域森林計画の対象となっている民有林を新たに取得した場合は、その森林がある市町村の長へ届け出る必要があります。

森林法第10条の7の2第1項(ただし書は省略)

地域森林計画の対象となつている民有林について、新たに当該森林の土地の所有者となつた者は、

農林水産省令で定める手続に従い、市町村の長にその旨を届け出なければならない。

参考:e-Gov法令検索「森林法」第10条の7の2

山林の届出先は、農業委員会ではなく市町村長です。農地の届出を済ませても、山林の届出は別に行わなければなりません。届け出なかったり、事実と違う届出をしたりすると、農地の届出と同じく10万円以下の過料の対象になります。

農地の届出 森林の届出
根拠条文 農地法3条の3 森林法10条の7の2
窓口 農業委員会 市町村長
対象 農地・採草放牧地 地域森林計画の対象になっている民有林
手続時期 法律は「遅滞なく」。自治体の案内を確認 所有者となった日から90日以内
過料 10万円以下 10万円以下

森林法第213条
第十条の七の二第一項の規定に違反して、届出をせず、又は虚偽の届出をした者は、十万円以下の過料に処する。

参考:e-Gov法令検索「森林法」第213条

森林の届出は、土地の所有者になった日から90日以内です(森林法施行規則7条1項)。

参考:e-Gov法令検索「森林法施行規則」第7条

保安林など特別な区域に指定されている場合は取り扱いが変わることもあるため、対象になる山林があるかどうかは、届出前に森林がある市町村の窓口へ確認しておくと安心です。相続した不動産の中に山林があるかどうかは、固定資産税の課税明細書や名寄帳で確認できます。

相続した山林のすべてが届出の対象になるわけではありません。判断がつかないまま、焦って結論を出す必要はありません。農地の届出や相続登記の相談とあわせて山林の有無を伝えていただければ、必要な届出の種類を整理してご案内します。

7. よくある質問

この章でわかること 届出の期限・過料・農地バンクについてのよくある疑問

Q. 相続人が何人もいて、まだ誰が農地を継ぐか決まっていません。それでも届出は必要ですか。
A. 相続開始時の共有状態と、遺産分割で取得者が決まった時点のそれぞれが、届出の対象になる場合があります。複数の相続人による連名提出も可能ですが、自治体によって提出時期や必要書類の案内が異なります。農地がある市町村の農業委員会へ、現在の状況を伝えて確認してください。

Q. 届出をすれば、農地を売ったり、宅地に変えたりできますか。
A. いいえ。届出は、権利を取得した事実を農業委員会に知らせるだけの手続きです。農地を売却したり、農地以外の用途に変えたりする場合は、別に許可の手続きが必要になります。具体的な進め方は農業委員会にご確認ください。

Q. 届出は自分でできますか。
A. できます。届出書は農業委員会が定める様式に必要事項を記入して提出します。書き方に迷う場合は、届出先の農業委員会に直接確認する方法もあります。当事務所にご相談いただいた場合は、相続登記の手続きとあわせて、届出が必要かどうかの整理をお手伝いします。

Q. 耕作しない農地を人に貸したいのですが、農業委員会の許可はいりますか。
A. 農地を第三者に貸し出す場合は、原則として農地法にもとづく許可や、農地中間管理事業の手続きが必要です。貸す相手を自分で探す場合と、農地バンクを通して探す場合とでは、必要な手続きが異なります。貸し方によって窓口や必要な手続きが変わるため、農地がある市町村の農業委員会や農地中間管理機構へ相談することをおすすめします。

Q. 農地とあわせて山林も相続しました。届出は一度で済みますか。
A. いいえ。農地の届出は農業委員会、山林の届出は市町村長と、窓口が分かれています。それぞれ別の届出として提出する必要があります。相続した不動産のどこまでが農地で、どこからが山林かを一緒に確認することもできますので、迷う場合はご相談ください。

8. まとめ

  • 農地の相続そのものに、農地法3条の許可はいりません。ただし、農業委員会への届出は別に必要です。法律は「遅滞なく」と定めており、具体的な提出時期は農地がある市町村の案内を確認します
  • 相続登記(法務局)と、この届出(農業委員会)は別の手続きです。両方を済ませておくと、あとで慌てずにすみます
  • 相続人が複数いる場合は、相続開始時と遺産分割後のそれぞれで届出が必要になる場合があります。誰がどの段階で提出するかを農業委員会へ確認してください
  • 耕作する予定がない場合は、農地バンクへの貸付や農業委員会への相談が選択肢になります。ただし、借り手が見つかるとは限りません
  • 山林を一緒に相続した場合は、農地とは別に、市町村長への届出が必要になることがあります

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農地の届出と相続登記は別の手続きですが、どちらを先に行うかは自治体の案内や遺産分割の状況によって異なります。相続人が複数いて話し合いが終わっていない場合や、山林が混ざっていて何を届け出ればよいか分からない場合も、分かっている範囲で構いませんので、まずはご相談ください。

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