この記事の監修者 司法書士 岩田 剛知(島根県司法書士会 第394号)
最終更新日:2026年8月21日 ※本記事は更新日現在の法令・実務に基づき内容を確認しています。
以前に書いた遺言があるけれど、あのころとは状況が変わってしまった。そう感じている方は少なくありません。
結論から言うと、遺言はいつでも、何度でも書き直せます。書き直すと前の遺言がどうなるのか、自筆証書遺言と公正証書遺言でどう手順が違うのかを、順番に説明します。
この記事のポイント
- 遺言者はいつでも遺言の全部または一部を撤回できます(民法1022条)
- 新しい遺言を書くと、食い違う部分だけが撤回されたとみなされます。全部が無効になるわけではありません(民法1023条1項)
- 危ないのは、古い遺言が残っていてどちらが有効か分からなくなること。日付をはっきり書くことが大切です
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結論:遺言は何度でも書き直せる。ただし食い違う部分だけが撤回される
遺言の書き直しとは、以前に作った遺言の内容を、新しい遺言によって変更することです。結論を先に言うと、遺言者はいつでも、何度でも遺言を書き直すことができます。そして新しい遺言を書くと、前の遺言と内容が食い違う部分についてだけ撤回したものとみなされ、それ以外の部分はそのまま有効です。
民法第1022条
遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。
ここで誤解されやすいのが、「新しい遺言を書けば、古い遺言はすべて消える」という考え方です。実際には、前の遺言のうち新しい遺言と食い違わない部分は、そのまま有効に残ります。次の章で、この仕組みを詳しく説明します。
新しい遺言を書くと、前の遺言はどうなるか
民法は、前の遺言と後の遺言の内容が抵触する場合の扱いを定めています。
民法第1023条第1項
前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
「抵触する」とは、同じ財産について異なる指定をしているなど、両方をそのまま実現できない状態を指します。たとえば、前の遺言で「自宅を長男に相続させる」と書き、新しい遺言で「自宅を長女に相続させる」と書けば、この部分は抵触します。新しい遺言の内容が優先され、前の遺言のこの部分は撤回されたものとみなされます。
一方、前の遺言に書いた預貯金の分け方について、新しい遺言では何も触れていなければ、その部分は食い違っていないため、前の遺言のまま有効です。
遺言者が古い遺言書を故意に破棄した場合も、その破棄した部分は撤回したものとみなされます(民法1024条)。ただしこれは、自筆証書遺言を物理的に破ることができる場合の話です。公正証書遺言の扱いは、あとの章で説明します。
危ないのは「どちらが有効か分からない」状態になること
書き直しそのものは、難しい手続きではありません。危ないのは、書き直したことを忘れて古い遺言を処分せず残してしまい、遺された家族が「どちらが本当の遺言か」を判断できなくなることです。
前の遺言と後の遺言のどちらが優先されるかは、どちらが後に作られたかで決まります。そのため、日付をはっきりと書くことが特に重要です。「令和8年8月吉日」のように日を特定できない書き方をした遺言は、無効と判断された判例があります。日付は年月日まで正確に書いてください。
日付以外にも、形式のつまずきで遺言が無効になる例はあります。書き直すときにやりがちな間違いは、遺言が無効になる書き方とは? 自筆でやりがちな間違いにまとめています。
また、遺言を書き直す際は、新しい遺言に「以前に作成した遺言をすべて撤回する」という一文を加えておくと、抵触する部分の判断に迷いが生じにくくなります。この一文があれば、内容が食い違うかどうかにかかわらず、前の遺言全体が撤回されたことが明確になります。
ここまでで、自分が書いた遺言や家にある古い遺言をどう扱えばいいか分からない場合は、無料相談で状況をお伺いしながら整理できます。→ 相談を予約する
自筆証書遺言を書き直すときの注意点
自筆証書遺言を自宅で保管している場合は、新しい遺言を書いたあと、古い遺言を破棄しておくと、どちらが有効か分からなくなる事態を防げます。前述のとおり、故意の破棄も撤回とみなされます(民法1024条)。
法務局の自筆証書遺言書保管制度を使っている場合は、少し手順が異なります。預けた遺言書を書き直したいときは、保管の申請そのものを撤回する手続きが必要です。
法務局における遺言書の保管等に関する法律第8条第1項
遺言者は、特定遺言書保管所の遺言書保管官に対し、いつでも、第四条第一項の申請を撤回することができる。
参考:e-Gov法令検索「法務局における遺言書の保管等に関する法律」第8条
撤回の申請は、預けた法務局(遺言書保管所)の窓口で、本人が手続きします。撤回すると、遺言書は返還され、保管されていた情報は消去されます。撤回そのものに手数料はかかりません。
撤回したあとは、新しい遺言を書き、あらためて保管を申請するか、自宅で保管するかを選べます。
公正証書遺言を書き直すときの注意点
公正証書遺言は、自筆証書遺言と違って手元に「原本」がありません。原本は公証役場に保管されているため、遺言者が手元の正本や謄本を破棄しても、撤回したことにはなりません。
公正証書遺言を書き直す方法は2つあります。ひとつは、新しく公正証書遺言を作り直す方法です。新しい公正証書遺言の内容と食い違う部分は、前の公正証書遺言から撤回されます。もうひとつは、「以前の遺言を撤回する」という内容だけの公正証書を作る方法です。財産の分け方を新しく決めていない場合は、こちらを選ぶこともできます。
公正証書遺言を作り直す場合、松江市周辺にお住まいの方は松江公証役場が窓口になります。当事務所では、公証役場との日程調整や必要書類の準備をあわせてお手伝いしています。
参考:松江地方法務局「松江公証役場」(松江市母衣町95番地)
| 区分 | 自筆証書遺言 | 公正証書遺言 |
|---|---|---|
| 抵触する部分の扱い | 新しい遺言を書けば、食い違う部分だけ撤回される | 同左。食い違う部分だけ撤回される |
| 古い遺言の破棄 | 遺言者が破棄すれば、その部分は撤回とみなされる | 原本が公証役場にあるため、遺言者が破棄しても撤回にならない |
| 撤回の明確な意思表示 | 新しい遺言に「以前の遺言を撤回する」と書けば全部を撤回できる | 同左。新しい公正証書遺言、または撤回だけを内容とする公正証書でも可能 |
| 保管制度を使っている場合 | 保管の申請自体を撤回する手続きがある(手数料なし) | 対象外(保管制度は自筆証書遺言のみ) |
こんなときは書き直しを検討する
書き直しは、何か問題が起きてからでなくても構いません。次のようなきっかけがあれば、内容を見直す良い機会です。
| きっかけ | 起こりやすいこと | 書き直しの目安 |
|---|---|---|
| 財産が変わった(不動産を売った・預金が増減した等) | 遺言に書いた財産の内容が実際と食い違う | 変わった財産の記載だけを直した新しい遺言を作る |
| 相続人が亡くなった、または新たに生まれた | 「〇〇に相続させる」の対象がいなくなる、または増える | 渡す相手の記載を書き直す |
| 家族との関係が変わった(疎遠になった・再婚した等) | 作成当時の気持ちのまま内容が固定されている | 内容全体を見直す |
| 前の遺言をどこに置いたか分からなくなった | 古い遺言と新しい遺言の両方が見つかり、どちらが有効か分からなくなる | 日付を確認し、新しい遺言に「以前の遺言をすべて撤回する」と明記する |
迷ったときは、遺言全体を作り直さなくても、変わった部分だけを新しい遺言に書き、前の遺言と組み合わせて使うこともできます。ただし前述のとおり抵触する部分の判断がややこしくなるため、変更が複数にわたる場合は、全体を作り直すほうが分かりやすくなります。
財産の中身が変わったときは、名義の扱いもあわせて確かめておくと確実です。実家を残すか売るかで迷っている場合は、誰も住まない実家、名義変更と売却どちらが先かが判断の順番の参考になります。遺言があっても、亡くなったあとの名義変更(相続登記)は別に必要で、期限も決まっています(相続登記の3年ルール)。
渡す相手や割合を大きく変える書き直しでは、遺留分にも気をつけてください。兄弟姉妹以外の相続人には、遺言でも動かせない取り分が残ります。詳しくは遺留分とは? 遺言があっても渡さざるをえない取り分で説明しています。
よくある質問
Q. 前に書いた遺言を書き直すと、前のものは全部無効になりますか?
A. いいえ。新しい遺言と内容が食い違う部分だけが撤回されたとみなされます(民法1023条1項)。食い違わない部分は、そのまま有効です。
Q. 前の遺言を破って捨てれば、それだけで撤回できますか?
A. 自筆証書遺言であれば、遺言者が故意に破棄すれば、その部分は撤回したものとみなされます(民法1024条)。ただし公正証書遺言は原本が公証役場に残るため、手元の書類を破棄しても撤回にはなりません。
Q. 古い遺言と新しい遺言、両方見つかったらどうなりますか?
A. 日付を確認し、日付が新しいほうが優先されます。ただし優先されるのは内容が食い違う部分だけなので、古い遺言に書かれた食い違わない部分はそのまま有効です。判断に迷ったら、専門家に確認することをおすすめします。
Q. 法務局に預けた自筆証書遺言を書き直したい場合、前のものはどうすればいいですか?
A. 保管の申請自体を撤回する手続きがあります(法務局における遺言書の保管等に関する法律第8条)。撤回すると遺言書は返還され、保管情報は消去されます。撤回に手数料はかかりません。
Q. 何度も書き直して構いませんか?
A. 構いません。遺言者はいつでも遺言の全部または一部を撤回できます(民法1022条)。回数の制限はありません。
まとめ
- 遺言はいつでも、何度でも書き直せます(民法1022条)
- 新しい遺言を書くと、内容が食い違う部分だけが撤回されたとみなされます。全部が消えるわけではありません(民法1023条1項)
- 危ないのは、古い遺言が残っていてどちらが有効か分からなくなること。日付をはっきり書くことが大切です
- 公正証書遺言は原本が公証役場に残るため破棄できません。新しく作り直すか、撤回の意思表示を明示します
- 財産や家族関係が変わったときは、書き直しを検討する良い機会です
書き直しは、これまでの遺言を否定することではありません。今の状況に合わせて、内容を更新していくものです。
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判断に迷ったときは
「今の遺言のままでいいのか、書き直したほうがいいのか」だけのご相談でも構いません。無理に契約をお願いすることはありません。
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