監修者 司法書士 岩田 剛知(島根県司法書士会 第394号)
ページ更新日:2026年10月26日 一般的な手続きの解説であり、個別の事情によって必要な対応は異なります。
入院中の親が「遺言を残したい」と話しても、公証役場へ行くのが難しいことがあります。公正証書遺言では、公証人に病院などへの出張を相談できます。
ただし、家族が代わりに意思を決めたり、署名したりする手続きではありません。本人がどの財産を誰へ渡したいのかを、適切に確認する必要があります。
出張を相談するときに伝える事情と、先に集める資料を整理します。作成日だけを急いで決めず、本人確認、証人、病院の調整を順に確認しましょう。
この記事のポイント
- 出張は本人の意思確認を前提に相談します
- 家族は財産資料と病院の調整を準備します
- 証人と費用を作成前に確認します
入院中の遺言については、本人の希望と現在の状況から準備を整理できます。 入院中の遺言と出張の準備を相談する
1. 公証人の出張を相談できますが、本人の意思確認が必要です
この章でわかること 病院で作れることと、家族が代理できることは別です。
公正証書遺言とは、公証人が関わって作成する遺言です。公証人法49条は、公証役場以外の場所で遺言に関する職務を行えると定めています。入院先や施設への出張は、この仕組みを使って相談します。
民法では、証人二人以上の立会いと、遺言者が遺言の趣旨を公証人へ伝えることなどを定めています。遺言者は遺言を残す本人のことです。本人の意思を、家族の意見だけで置き換えることはできません。
家族が準備を手伝っても、遺言の内容を決めるのは本人です。誰へ何を渡したいかという希望を、本人が理解して示せるかが重要になります。
公証人法第49条
公証人は、第十八条第二項本文の規定にかかわらず、その役場以外の場所において、民法第九百六十九条から第九百七十条まで及び第九百七十二条に規定する遺言に係る職務を行うことができる。
入院していることだけで、遺言を作れないとは決まりません。反対に、入院先で会話ができたという一つの事情だけで、有効な遺言になると保証できるものでもありません。作成時の本人の状態と、内容の理解を確認します。
病院へ公証人を呼べばその日に作れる、と日程を決めないでください。公証人の確認と資料の準備、証人、病院での面会や場所の調整が必要です。本人の希望が変わった場合も含め、最終的な内容を確かめます。
2. 最初の相談では、本人の状況と希望を具体的に伝えます
この章でわかること 病名だけでなく、話す・聞く・書く状況を整理します。
| 項目 | 伝える内容 | 家族が確認すること |
|---|---|---|
| 本人の希望 | 誰へどの財産を渡したいか | 本人の言葉と家族の希望を分ける |
| 現在の状態 | 話す、聞く、読む、書く状況 | 時間帯や意思疎通の方法 |
| 入院先 | 所在地、病棟、連絡窓口 | 面会の条件、場所、立会いの調整 |
| 資料 | 戸籍、本人確認、財産資料の有無 | 不足資料と取得方法 |
| 作成方法 | 出張など希望する方法 | 証人、日程、受取方法、費用 |
たとえば、手のけがで文字を書けないが、内容は理解して説明できる場合があります。別の例は、話すことが難しくても、文字や通訳で意思を伝えられる場合です。何が難しいかを分けて伝えると、法律で認められる方法の検討につながります。
民法969条の2は、口がきけない人のために、通訳による説明や自書による特則を定めています。聴覚や発語の問題があるときは、必要な方法と支援を公証人へ相談します。「話せないから家族が代わりに答える」という対応にはしません。
認知症などで内容の理解が気になる場合は、診断名だけで作成可能かを決めません。今の本人が内容を理解して意思を示せるかを確認します。薬の影響、説明を聞く環境、疲れやすさなども、作成方法の相談で伝える情報になります。医療上の判断は医療者へ確認してください。
判断能力に不安がある場合は、遺言が無効になる場合の確認点も確認します。家族が有効・無効を決める前に、本人の状態と具体的な希望を公証人や専門家へ示します。
3. 戸籍・本人確認・財産資料を、本人の希望と合わせます
この章でわかること 紙の資料は、誰とどの財産かを確かめるために使います。
資料は、本人と受け取る人を特定し、財産を正確に示すために集めます。本人確認書類、親族関係が分かる戸籍、不動産の登記資料や評価資料、金融機関と口座の情報などが候補です。必要書類と有効期間は、公証役場へ個別に確認します。
不動産は、普段呼んでいる住所だけでは足りない場合があります。確認するのは、登記上の所在、地番、家屋番号、共有持分です。預貯金は、金融機関、支店、口座の種類などを整理します。口座情報を写真で家族へ広く転送するのではなく、提出方法を先に確認してください。
受け取る人について整理するのは、氏名、生年月日、関係です。似た氏名の親族や、姓が変わった人がいる場合は、特定する資料を確認します。本人より先に亡くなった場合の行き先も、遺言を作る段階で考える必要があります。
家族は、本人の希望をメモにできます。ただし、そのメモが遺言そのものになるとは限りません。財産一覧と希望のメモを分け、公証人が本人の意思を確認できるようにします。本人が示していない配分を、家族が補って完成案にしないことが大切です。
証人には法律上の制限があります。未成年者も証人になれません。推定相続人や受遺者、その配偶者と直系血族(親・子・孫など)は証人になれません。財産を受け取る予定の子が二人立ち会えばよい、というものではありません。公証人の一定の親族や使用人等にも制限があります。公証人へ候補者と関係を伝えて確認します。
証人は、財産を受け取る家族から選べるとは限りません。証人の手配を誰に依頼するか、費用が発生するかも事前に確認します。遺言執行者として誰に実行を任せるかは、証人とは別の役割です。
自書や会話が難しい場合も、どの動作や説明ができるかを具体的にご相談ください。 遺言・生前対策の案内を見る
4. 出張費用とウェブ会議の利用条件を、同じ相談で確認します
この章でわかること 移動の負担が軽くても、方式と費用は別に確認します。
公正証書遺言の作成には、公的な手数料があります。計算の条件は、財産の価額や受け取る人などです。病床で作成する場合は、手数料令32条の加算が関係します。出張の日当と旅費は、作成手数料とは別の費用です。証人手配や資料取得、専門家の報酬は分けて確認します。
| 費目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 作成手数料 | 財産の価額、受け取る人、証書等で変わる |
| 病床での加算 | 対象となる場合は加算前手数料の五割加算 |
| 出張の日当・旅費 | 公的な日当と交通等の実費 |
| 証人・資料・支援 | 手配や取得、依頼範囲に応じた費用 |
病床加算と出張の日当は、同じ費目ではありません。病院だから一律にこの総額になる、という見積もりにはしません。出張予定地、作成方法、必要な資料を伝えて、内訳を確認してください。詳細な日当の金額や計算は、公証役場の案内に照合します。
2025年10月1日から、公正証書の一連の手続きのデジタル化が始まりました。公正証書遺言も対象です。本人が希望し、公証人が相当と認める場合には、ウェブ会議の利用を選べる仕組みがあります。本人が自由にビデオ通話するだけで作れるものではありません。
入院先で通信を利用するなら、機器、通信、本人確認、証人の参加などを公証人へ確認します。病院の利用条件も別に調整します。オンラインなら家族だけで進められる、という理解にはしません。出張とウェブ会議のどちらを使うかは、本人の状況と正式な案内に沿って決めます。
5. 作成後は、保管と家族への伝え方まで整理します
この章でわかること 見つけてもらえる準備と、今後の見直しを確認します。
- 本人の希望と状態を整理する:家族の意見と分け、意思疎通の方法を確認します。
- 公証役場へ作成方法を相談する:出張やウェブ会議の利用条件、必要資料を確認します。
- 証人と病院を調整する:立会人の制限、日程、場所、費用を確認します。
- 内容を確認して作成し保管する:受け取る証書等と、家族への伝え方を整理します。
作成後に確認するのは、受け取った証書や電子データの扱いです。公証役場の保管と、本人が持つものの保管は別に整理します。遺言があることと、作成した公証役場の手掛かりを、信頼できる家族等へ伝える方法も考えます。
本人の回復後に財産や希望が変わった場合は、遺言の見直しを検討できます。新しい遺言で以前の内容を撤回する場合も、方式の確認が必要です。遺言の書き直しと撤回で、変更する範囲と以前の遺言の整理を確認します。
「今日作れなければ方法はない」と一人で判断しないでください。急ぐ事情があるときは、現在の状態と希望を伝え、利用できる方式を確認します。特別方式の遺言は、通常の遺言と条件や手続きが違います。この記事の出張手順を、そのまま他の方式へ流用することはできません。
公正証書と自筆証書の違いは、遺言の方式を選ぶ基準で確認できます。作成費用は、公正証書遺言の費用と内訳へつなげて整理してください。入院中は、方式の比較より先に本人の意思を示せる方法を確認することが大切です。
6. よくある質問
この章でわかること 判断に迷いやすい場面を確認します。
Q. 病院への出張を家族から相談できますか?
本人の希望や状況を伝え、必要な資料と日程を相談できます。ただし、家族が本人の代わりに遺言内容を決めることはできません。作成時には本人の意思を公証人が確認します。
Q. 手が動かず文字を書けないと、公正証書遺言は作れませんか?
自筆証書と同じように、全文を自分で手書きする方式ではありません。本人の理解や意思の示し方、承認と署名又はそれに代わる措置を公証人へ相談してください。話すことも難しい場合は、民法の特則に合う方法を確認します。
Q. 子が証人を務められますか?
推定相続人や受遺者など、法律が定める人は証人になれません。子だから安心という理由では決められません。候補者の関係を公証役場へ示し、証人の手配方法も確認します。
Q. 出張なら当日中に完成しますか?
完成までの日数を一律には約束できません。資料、本人確認、証人、病院の調整などによって変わります。急ぐ事情がある場合は最初に伝え、正式な日程を確認してください。
7. まとめ
- 公証人の病院への出張は、本人の意思確認を前提に相談します。
- 本人の状況、希望、財産資料、病院の調整を準備します。
- 証人の制限と、病床加算・日当・旅費を確認します。
- 作成後は保管と家族への伝え方、見直しも整理します。
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