この記事の監修者 司法書士 岩田 剛知(島根県司法書士会 第394号)
最終更新日:2026年9月11日 ※本記事は更新日現在の法令・実務に基づき内容を確認しています。
自筆で遺言を書こうとしている方の中には、「もうすぐ押印がいらなくなるらしい」と耳にした方もいるはずです。これは令和8年6月24日に公布された、実際の法改正です。
ただし施行日はまだ確定しておらず、今日書く遺言には、これまでどおりのルールがそのまま適用されます。何がいつ変わり、今書く方はどうすればよいのかを、順番に整理します。
この記事のポイント
- 令和8年6月24日に公布された法律により、自筆証書遺言などの押印が任意になることが決まりました
- 施行日は「公布から1年以内」の範囲で政令によって定められる予定で、2026年9月時点ではまだ確定していません
- 施行日より前に書く遺言には現行のルールが適用されるため、今書くなら引き続き押印してください
気になる点がある方は、無料相談でご相談いただけます。→ 無料相談の詳細を見る
1. 結論:押印はいずれ不要になりますが、いま書くなら押印してください
この章でわかること 改正はすでに決まっていますが、施行はまだ先です
令和8年6月24日に公布された「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)により、自筆証書遺言などにおける押印の要件が廃止され、押印は任意になります。
この改正はすでに国会を通過し、法律として成立・公布された確定した内容です。ただし、実際に効力を持つ「施行日」は、公布の日から起算して1年を超えない範囲内で、政令によって別途定められます。2026年9月時点で、具体的な日付はまだ決まっていません。
つまり、いま自筆証書遺言を書こうとしている方には、まだ改正前の現行ルールが適用されます。押印を省略してよい時期は、まだ来ていません。ここまでの流れと、これからの見通しを整理すると、次のようになります。
- 法律の成立・公布 —— 令和8年6月17日に成立し、同月24日に公布されました。ここまではすでに終わっています。
- 政令による施行日の決定 —— 公布から1年以内の範囲で、今後、政令で具体的な日付が定められます。
- 施行日以降に作成する遺言 —— 押印がなくても、方式としては有効になります。
- 施行日より前に作成する遺言 —— 現行の民法968条が適用され、押印がないと無効になるおそれが残ります。
遺言をめぐる制度は、このほかにもいくつかあります。全体像は生前対策のご相談ページでご確認いただけます。
2. 押印の任意化とは。何がどう変わるのか
この章でわかること 押印がなくても、遺言の方式としては有効になる予定です
今回の改正で変わるのは、遺言者や証人が押印しなければならないという「要件」が廃止される点です。押印してはいけなくなるわけではありません。押印してもよいですが、しなくても遺言としての方式は満たされる、という扱いになります。
対象になるのは、自筆証書遺言だけではありません。秘密証書遺言、死亡の危急に迫ったときなどに使う特別の方式の遺言も含め、遺言者・証人・立会人の押印が任意になります。遺言の内容を書き換える「加除訂正」をするときの押印も、同じく任意になる予定です。
参考:法務省「『民法等の一部を改正する法律』(成年後見及び遺言の制度の見直し)について」
同じ法律では、パソコンなどで作ったデータを法務局で保管してもらう「保管証書遺言」という、新しい遺言の方式も創設されます。こちらは押印の任意化とは別の改正で、施行までにさらに時間がかかります。ここでは、押印の扱いに絞って説明します。
この改正は、行政手続や民間の商習慣で押印を求める場面が減っていることを背景にしています。令和7年10月以降、公正証書遺言は原則として紙の署名押印に代わり電子サインを行います(書面作成の例外があります)。(日本公証人連合会の案内)
参考:法務省民事局「民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)」概要資料
法務省の資料には、押印の任意化の理由が挙げられています。行政手続や民間の商習慣で押印の見直しが進んでいることに加え、デジタル機器の普及で手書きの機会そのものが減っていることが背景です。押印という1つの動作のために朱肉や印鑑を探す負担は、意外と大きいものです。
同じ改正では、証人になれない人の範囲も広がります。受遺者本人に加え、受遺者の使用人(受遺者が法人の場合は役員・使用人)も証人になれなくなります。高齢者施設への遺贈が増えていることを踏まえた見直しです。
死亡の危急に迫ったときの遺言(死亡危急時遺言)や、船が遭難したときの遺言(船舶遭難者遺言)についても、録音・録画を使った新しい方式が追加されます。これらは特殊な場面で使う制度のため、ここでは詳しく取り上げません。
3. いつから変わるのか。施行日はまだ決まっていません
この章でわかること 施行日は「公布から1年以内」で、具体的な日付はまだ未定です
押印の任意化がいつから始まるのかは、法律の本文にも明記されています。
「公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日」に施行するとされているだけで、具体的な日付はまだ決まっていません。
改正事項によって、施行までの期間はそれぞれ異なります。整理すると、次のようになります。
| 改正事項 | 施行までの期間(政令で定める上限) |
|---|---|
| 遺言の押印の任意化 | 公布から1年以内 |
| 保管証書遺言の創設等(システム改修が必要な部分) | 公布から3年以内 |
| 成年後見制度の見直し(後見・保佐の補助への一元化等) | 公布から2年6か月以内 |
参考:法務省民事局「民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)」概要資料(施行日)
押印の任意化は、この中でいちばん早く施行される見込みです。それでも「1年以内」は上限であって、確定した日付ではありません。政令が公布されるまでは、いつ施行されるかを断定できません。
成年後見制度も同じ法律で見直されますが、施行の時期や内容は分けて考える必要があります。ここから先も、遺言の押印に絞って説明を続けます。
政令が公布された際は、法務省のウェブサイトや官報告示で確認できます。この記事でも、決まり次第、施行日を追記します。
4. 今の自筆証書遺言のルールを確認する(民法968条)
この章でわかること 現行ルールでは、押印を含む4つの要件をすべて満たす必要があります
施行前のいま、自筆証書遺言に求められる方式は民法968条に定められています。
民法第968条第1項
自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
民法第968条第2項
前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第九百九十七条第一項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の
目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。
この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。
民法第968条第3項
自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、
その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。
整理すると、現行ルールで自筆証書遺言に必要なのは、全文の自書、日付の自書、氏名の自書、そして押印の4つです。財産目録だけは自書でなくてもよいとされていますが、その場合は目録の各ページに署名と押印が必要です(民法968条2項)。施行前のいまは、本文にも財産目録にも押印してください。
民法第960条
遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない。
遺言はこの民法に定められた方式に従わなければ成立しません。方式を1つでも欠くと、内容がどれほどしっかりしていても、遺言そのものが無効になります。
- 全文を自書する —— 遺言の本文は、パソコンや代筆ではなく、遺言者本人が手書きします。
- 日付を自書する —— 「令和8年9月3日」のように、特定できる日付を書きます。
- 氏名を自書する —— 氏名を本人が自書します。紛争回避のため、戸籍上の氏名を推奨します。
- 押印する —— 認印でも構いませんが、現行ルールでは省略できません。
この4つのうち1つでも欠けると、遺言は無効になるおそれがあります。押印以外にも見落としやすい点があり、遺言が無効になる書き方とは?自筆でやりがちな間違いの記事で具体的に取り上げています。
押印を面倒に感じる方や、体調によって朱肉をうまく扱えない方にとって、押印の任意化は歓迎できる変化のはずです。それでも、施行日が来るまでは、今の4つの要件をすべて満たす書き方を続ける必要があります。
5. 改正後も変わらないこと・注意が必要なこと
この章でわかること 自書の要件は変わりません。施行前後をまたぐ遺言には注意が必要です
押印が任意になっても、全文・日付・氏名を自書する要件はそのまま残ります。パソコンで作成した遺言書の本文が、そのまま有効になるわけではありません。
財産目録に自書が不要という現行の扱いも維持されます。変わるのは、押印という一部分だけです。
もう1つ注意したいのは、施行日をまたぐ遺言の扱いです。令和8年法律第45号附則第5条により、施行日前に作成された遺言には従前の例が適用されます。つまり、押印を欠いた遺言が施行後に自動的に有効になるわけではありません。施行日が来るまでは、押印を省略しない書き方を続けることをおすすめします。(令和8年法律第45号附則第5条)
こんな方は、特に気をつけておく価値があります
- ✓これから自筆証書遺言を書こうとしている
- ✓以前に書いた遺言に、押印を忘れているかもしれない
- ✓財産目録をパソコンで作り、署名だけして押印を忘れている
- ✓遺言の内容を書き直そうと考えている
すでにある遺言を書き直したい方は、遺言は書き直せる。撤回と作り直しの正しい手順の記事で、具体的な手順を確認できます。
方式の不備を防ぐ方法として、法務局に自筆証書遺言を預ける保管制度もあります。窓口では、日付・署名・押印などの外形的事項を確認します。一方、遺言能力や遺言内容の法的有効性まで保証する制度ではありません。紛失や改ざんの防止にはつながりますが、作成時には現行の要件を満たすことが大切です。
押印を忘れたまま保管している遺言がある場合
気づかずに保管している自筆証書遺言に押印がないと、いざというときに無効と判断されるおそれがあります。ご依頼を無理におすすめすることはありませんので、心当たりがある方は一度確認だけでもご相談ください。→ 押印の有無を確認する
6. 自筆証書遺言と公正証書遺言、どちらを選ぶか
この章でわかること 迷ったときに確認したい、2つの方式の違い
押印の要否だけでなく、自筆証書遺言と公正証書遺言には、もともといくつかの違いがあります。今回の改正で、この違いがなくなるわけではありません。
公正証書遺言は、公証人が関わって作成するため、方式の不備で無効になるリスクが低いという特徴があります。その分、公証人手数料などの費用がかかります。
迷ったときは、無効になりにくさと費用のどちらを優先するかで考える
どちらを選ぶかは、無効になりにくさを取るか、費用や手間を取るかで変わります。
| 比べる点 | 自筆証書遺言 | 公正証書遺言 |
|---|---|---|
| 作成方法 | 自分で全文・日付・氏名を自書 | 公証人が口述をもとに作成 |
| 押印(改正後) | 任意になる予定 | 令和7年10月以降は原則として紙の署名押印に代わり電子サイン(書面作成の例外あり) |
| 方式の不備で無効になるリスク | 比較的高い | 比較的低い |
| 費用 | 作成自体は無料 | 公証人手数料などが別途かかる |
選び方の基準は自筆と公正証書、どちらにするか決める3つの基準の記事で詳しく整理しています。
もう1つの違いは、相続が始まったあとの手続きです。自筆証書遺言は原則として家庭裁判所での「検認」という手続きが必要です。ただし、法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用した遺言は検認が不要です。
民法第1004条第1項
遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。
民法第1004条第2項
前項の規定は、公正証書による遺言については、適用しない。
参考:e-Gov法令検索「民法」第1004条(遺言書の検認)
公正証書遺言は検認の対象外です。自筆証書遺言は原則として、相続開始後に家庭裁判所での検認を経てから、預貯金の解約や相続登記などの手続きに進みます。ただし、法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用した遺言は検認が不要です。検認は遺言の有効性を判断する手続きではありませんが、相続人にとっては手間と時間がかかります。押印が任意になっても、この違いはそのまま残ります。
費用の内訳をさらに詳しく知りたい方は、公正証書遺言の費用はいくら?手数料・報酬・証人の内訳の記事で確認できます。当事務所の公正証書遺言サポートは110,000円(税込)からで、証人2名分の費用を含みます。公証人手数料は別途かかります。自筆証書遺言サポートは77,000円(税込)からです。詳しい料金は料金のご案内でご確認ください。
遺言はあくまで生前対策の1つです。全体の整理の仕方は生前対策は何から始めればいいか?目的と手段を整理する記事で説明しています。全般のご相談は生前対策のご相談ページでも受け付けています。
遺言は、誰にどの財産を渡すかを決める書面です。実際の相続手続き(名義変更・遺産分割)については相続のご相談ページでご案内しています。
7. よくある質問
この章でわかること 施行日・押印の要否・公正証書遺言との関係についてのよくある疑問
Q. 施行日はいつですか。正確な日付を知りたいです
A. 2026年9月時点で、政令による具体的な日付は決まっていません。法律の規定では、公布の日(令和8年6月24日)から1年を超えない範囲で政令によって定められます。決まり次第、この記事も更新します。
Q. 今から自筆証書遺言を書く場合、押印を省略してもいいですか
A. 省略しないでください。施行日より前は現行の民法968条が適用され、押印がない遺言は方式を満たさず、無効になるおそれがあります。今は押印してください。
Q. すでに書いた遺言に押印を忘れていた場合、施行後は有効になりますか
A. 令和8年法律第45号附則第5条により、施行日前に作成された遺言には従前の例が適用されます。押印を欠いた遺言が施行後に自動的に有効になるわけではありません。押印を忘れている遺言に気づいた場合は、早めの書き直しをご検討ください。詳しくは附則第5条をご確認ください。
Q. 押印には実印が必要ですか
A. 民法968条は押印を求めていますが、印鑑の種類までは指定していません。現行のルールでも認印で構いません。改正後は押印自体が任意になるため、この点を気にする必要もなくなります。
Q. この改正は公正証書遺言にも関係しますか
A. 令和7年10月以降、公正証書遺言は原則として紙の署名押印に代わり電子サインを行います(書面作成の例外があります)。今回の改正は、主に公正証書遺言以外の方式の遺言における押印を対象にしています。詳しくは日本公証人連合会の案内をご確認ください。
8. まとめ
- 令和8年6月24日に公布された法律により、自筆証書遺言などの押印が任意になることが決まりました
- 施行日は「公布から1年以内」の政令で定められる予定で、2026年9月時点ではまだ確定していません
- 全文・日付・氏名の自書という要件は、改正後も変わりません
- 施行日より前に書く遺言には現行のルールが適用されるため、いまは押印を省略しないでください
- 公正証書遺言という選択肢もあり、無効になりにくさと費用のどちらを優先するかで選び方が変わります
まずは、いま手元にある遺言、またはこれから書こうとしている遺言に、押印が入っているかを確認するところから始めてください。押印が抜けていることに気づいたら、そのままにせず、早めに手直ししてください。
※この記事は、2026年9月時点で法務省が公表している資料をもとに作成しています。施行日や運用の細部は、今後、政令や関連通達によって定まります。最新の内容は、法務省の公式発表であわせてご確認ください。
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判断に迷ったときは
「押印が任意になると聞いたけれど、今の遺言はどうすればいいのか分からない」という状態のままで構いません。今書いている遺言、あるいはすでにある遺言を、一緒に確認するところから始められます。施行日が決まっていない今だからこそ、迷わず現行のルールで進めておくことが安心につながります。
相談は口頭からでも構いません。遺言書が手元にあれば、あわせてご用意ください。押印の有無だけを確認したい、という短いご相談でも受け付けています。
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