監修者 司法書士 岩田 剛知(島根県司法書士会 第394号)
ページ更新日:2026年10月26日 一般的な手続きの解説であり、個別の事情によって必要な対応は異なります。
相続放棄が受理されても、家への対応が全て終わるとは限りません。
放棄の時に財産を現に占有していた人は、引渡しまで保存義務を負います。
住み方や管理の実態、引き渡す相手、避けたい処分を順に確認します。
この記事のポイント
- 放棄時の占有を確認
- 引渡しまで保存する
- 売却や解体は別に判断
相続放棄の受理後、家へどこまで対応するか迷ったら、住み方や鍵の管理から相談できます。 相続放棄した家の保存と引渡しを相談する
1. 放棄時に現に占有していた財産を保存する
この章でわかること 全員に一律の管理義務が残る制度ではありません。
相続放棄をした人の保存義務は、民法940条で定められています。放棄の時に相続財産を現に占有していたことが条件です。対象の財産を相続人や相続財産清算人へ引き渡すまで続きます。
相続放棄とは、家庭裁判所への申述で相続人としての承継をしない手続きです。保存義務とは、現に占有していた財産を、自分の財産と同じ注意で保存する義務です。相続しないことと、手元の財産を安全に引き渡すことは別に考えます。
民法第940条第1項
相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。
2023年4月1日施行の改正で、義務の対象と内容が明確にされました。現在の説明は、相続放棄した人全員に、遺産全体の管理が残るというものではありません。現に占有する財産の保存を超えた、広い管理義務と混同しないでください。
例えば、親の家で一緒に暮らし、その家を現に占有している場合を考えます。放棄後も保存義務が残るかを確認する場面です。一方、親の家に住まず、占有もしていなかった人は、親族という理由だけで同条の義務を負うとはいえません。
改正前に放棄したケースや、以前に選任された管理人がいるケースは、時点も整理します。死亡日、放棄した日、選任日が分かる書類を残してください。古い記事の管理義務という言葉だけで、現在の負担を決めないことが大切です。
参考:法務省:所有者不明私道への対応ガイドライン・放棄者の保存義務
2. 現に占有していたかは、暮らしと管理の実態で見る
この章でわかること 同居・鍵・出入りの一項目だけで結論を出しません。
現に占有しているかは、その財産を実際に支配している状況から確認します。住民票の住所だけで決めることはできません。自分は遠方にいるという理由だけで、占有がないとも言い切れません。
誰が家に住んでいるか、鍵を誰が持つか、家財を誰が保管するかを整理します。誰が出入りを管理しているかも、確認する事実です。鍵を持っているだけで義務がある、ないとは決めません。
例えば、子が親の家で暮らし、荷物も置いている場合を考えます。別の子は遠方に住み、緊急時用の予備鍵だけ持っています。この二人に同じ判断を当てはめず、利用と管理の実態を分けて示してください。
放棄後に住民票を移せば義務が消える、という考えも避けます。放棄時の状況と、その後に誰へ何を引き渡したかが必要です。鍵を玄関に置いて去るだけでは、適切な引渡しをしたか分かりません。
家だけでなく、預かった通帳や家財なども個別に整理します。家を占有していないことと、別の相続財産を保管していないことは同じではありません。対象の財産ごとに、所在と保管者を記録します。
相続放棄をまだ申し立てていない場合は、申述の手続きを確認します。放棄の可否や期限を確認する話と、受理後の保存の話を分けて進めてください。
| 場面 | 整理する資料・事実 | 避けたい決めつけ |
|---|---|---|
| 親の家に同居 | 居住状況、家財、鍵の管理 | 受理されたから直ちに対応不要 |
| 遠方で予備鍵を保管 | 鍵を預かった理由、出入りの実態 | 鍵だけで占有と決める |
| 第三者が利用 | 利用契約、連絡先、管理の状況 | 自分が住んでいないから無関係 |
| 家財や通帳を預かる | 預かった物の一覧、所在、受領日 | 家の問題だけ考えればよい |
3. 保存と売却・解体・遺品処分を区別する
この章でわかること 現状を守る対応と、財産を処分する権限は別です。
保存義務があるからといって、家を売ったり解体したりする権限まで得られるわけではありません。危険な状態を見つけたら、状況と対応の必要性を記録します。その上で、誰がどの権限で対応するかを確認します。
無施錠の出入口、漏水、破損などを見つけた場合は、写真と発見日を残します。危険な建物に自分で入ったり、壊れた設備を直したりする必要があると決めないでください。緊急性があれば、関係する窓口へ現状を伝えます。
相続財産の処分は、相続放棄にも影響することがあります。民法921条には、財産の処分などについて単純承認と扱う規定があります。保存行為の例外もあるため、判断に必要なのは具体的な行為の内容です。
放棄後の隠匿や私的な消費についても、同条に別の規定があります。先に放棄していれば遺品を自由に持ち帰れる、とは考えません。価値のある家財、預金、売却代金を自分のものとして扱わないでください。
保存のために費用を払った場合は、領収書と目的を残します。誰が負担するか、立替分を回収できるかは別の問題です。保存義務の説明だけから、高額な修繕や費用負担を一律に決めないようにします。
借金の内容がまだ不明なら、亡くなった親の借金を調べる手順も確認します。家の保存についての支出と、亡くなった方の借金を返す行為は区別してください。
引き渡す相手や保存のために行う作業が決まらない場合は、受理通知と家の現状をもとにご相談ください。 相続の相談・手続き案内を確認する
4. 引き渡す相手を確認し、受領の記録を残す
この章でわかること 清算人の選任と、財産の引渡しを別々に確認します。
保存義務の終わりは、相続人又は相続財産清算人への対象財産の引渡しです。放棄の受理通知を受け取った日だけで終わるとは限りません。全員が放棄した場合も、家が直ちに国の管理へ移るわけではありません。
相続する人がいる場合は、その人が引継先となるかを確認します。自分が放棄しても、別の順位の相続人がいる場合があります。まだ自分の相続を判断している人へ、一方的に鍵を送るのは避けてください。
全員の放棄などで相続人がいなくなった場合は、相続財産清算人の選任が関係します。清算人とは、亡くなった方の債務の支払いなどを行い、相続財産を清算する担当です。家庭裁判所への申立てが必要です。
裁判所は、利害関係人などを申立人とし、亡くなった方の最後の住所地の家庭裁判所を申立先と案内しています。管理費用などの不足が見込まれる場合、予納金が必要なことがあります。費用がなくても自動で選任されるとは考えません。
引継ぎには、家の所在、鍵、資料、現状、対応済みの作業をまとめます。誰へ、いつ、何を渡したかが分かる受領記録を残してください。保管中の物を一部手元に残しているなら、その扱いも確認します。
選任がされたことと、引渡しが済んだことは同じではありません。対象財産の引渡しまで確認して、保存の終了を整理します。相手への連絡だけで義務が終わったと決めないようにしてください。
保存から引渡しまでの順番
- 放棄時の占有と対象財産を整理する
- 相続する人がいるか確認する
- 必要なら清算人選任などの手続きを検討する
- 鍵・財産・資料を引き渡し、受領記録を残す
5. 古い案件と別の責任は、資料を分けて確認する
この章でわかること 保存義務がないことを、全ての責任がないと広げません。
2023年4月1日前の放棄や、旧制度の管理人がいる場合は、当時の状況を整理します。施行前に旧民法952条で選任された管理人は、保存・引渡しの規定では現在の清算人とみなされます。一方、公告や債権者への弁済などには旧手続きが残る場合があります。新しい説明だけで、過去の行為や裁判所の処分を読み替えないでください。
民法940条の保存義務と、建物事故などの責任も別に検討します。自分の所有部分がある場合や、自分自身がした行為の責任まで消えるとはいえません。放棄による効果を、家に関する全ての問題へ広げないでください。
固定資産税の通知が来た場合も、保存義務があるから納税義務があるとは決めません。通知の対象年度、所有関係、相続放棄の資料を確認します。自治体への説明と、占有の判断を分けて整理する必要があります。
放棄の期限が気になる方は、相続放棄の3か月の数え方を確認します。借金を承継するかという判断と、保存の引継ぎを並行して進めます。保存の相談だけを続けて、申述の期限を見落とさないようにしましょう。
相続放棄以外の処分を検討している方は、いらない土地を手放す方法との違いも確認できます。家を自由に売却できる立場かを確かめてから方法を選びます。相談の持ち物には、受理通知と占有状況のメモを加えてください。
6. よくある質問
この章でわかること 判断に迷いやすい場面を確認します。
Q. 放棄が受理されたら、その日に家を放置してよいですか?
放棄時に現に占有していた財産には、引渡しまで保存義務が残ります。受理されたことと、引渡しが済んだことを分けて確認します。
Q. 鍵を持つだけで保存義務がありますか?
鍵だけで一律には決めません。実際の居住、出入り、管理の状況も整理します。放棄時の実態を専門家へ示して確認してください。
Q. 全員が放棄したら家は自動で国へ渡りますか?
直ちに国の管理へ移るわけではありません。清算人選任や引渡しなどを検討する必要があります。申立てと予納金の要否も確認します。
7. まとめ
- 放棄時に現に占有していた財産が、保存義務の対象です。
- 住民票や鍵の有無だけで占有の判断をしません。
- 保存義務と売却・解体などの権限を区別します。
- 相続人又は清算人への引渡しと受領記録を確認します。
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