この記事の監修者 司法書士 岩田 剛知(島根県司法書士会 第394号)
最終更新日:2026年9月14日 ※本記事は更新日現在の法令・実務に基づき内容を確認しています。
相続登記は、不動産を相続で取得したと知った日から3年以内に申請する義務があります。ですが、相続人どうしの話し合いがまとまらず、期限までに名義変更まで終えられそうにない、という相談は珍しくありません。
そんなときに使えるのが、相続人申告登記という制度です。名義は変わりませんが、義務だけを先に果たすことができます。何が済んで何が済まないのか、必要な書類や申出先、費用の考え方とあわせて説明します。
この記事のポイント
- 相続人申告登記をしても不動産の名義は変わりません。義務の履行と登記名義は別のものです
- 必要書類は少なく、登録免許税もかかりません
- 遺産分割がまとまったら、あらためて相続登記(本登記)の申請が必要になります
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1. 結論:相続人申告登記でできるのは「3年の期限」への対応だけ
この章でわかること 相続人申告登記の位置づけと、この記事で分かること
相続人申告登記とは、不動産の名義人が亡くなったことと、自分がその相続人であることを、法務局の登記官に申し出る手続きです。申し出をすると、相続登記の申請義務を果たしたものとみなされますが、不動産の名義そのものは変わりません。
遺産分割の話し合いが長引いていて、3年の期限までに名義変更まで終えられそうにないときの、基本的な申請義務を先に果たす手続きです。話し合いがまとまったら、あらためて名義変更の申請(本登記)が必要になる点は、先に押さえておいてください。
登記記録の上でも、両者の扱いは異なります。相続登記(本登記)は、亡くなった方から相続人へ所有者の名義そのものを書き換える手続きです。一方、相続人申告登記は、既存の名義人の記録はそのままに、相続人の氏名・住所を付け加える形で記録されます。誰が所有者かという記録は、本登記をするまで動きません。
相続登記そのものの期限や過料については、相続登記の3年ルールを説明した記事で詳しく説明しています。ここでは、その期限に間に合わないと分かったときの選択肢に絞って説明します。2024年3月31日以前に始まった相続については、相続登記の期限は2027年3月31日です。
たとえば、相続人が5人、6人と多いケースでは、全員の意見がまとまるまでに時間がかかります。遠方に住む相続人がいる、相続人の中に高齢の方がいて連絡調整に時間がかかる、といった事情もあります。こうした事情そのものがすぐに解消されなくても、基本的な申請義務を先に果たせるのが、この制度の役割です。
2. なぜこの制度があるのか:相続登記の義務化と間に合わないとき
この章でわかること 相続登記の義務化の内容と、相続人申告登記が生まれた理由
相続登記の申請は、2024年4月1日から義務になっています。相続人申告登記も、同じ日にあわせて使えるようになった制度です。名義変更がされないまま放置される不動産が増え、公共事業や災害復旧の妨げになるといった問題が、義務化の背景にあります。
不動産登記法第76条の2第1項
所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、
当該所有権を取得したことを知った日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。
遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により所有権を取得した者も、同様とする。
問題は、相続人が誰で、それぞれどのくらいの割合を持つのかが決まらないと、名義変更の申請ができないことです。相続人が多い、疎遠な親族がいる、遺産の分け方で意見が割れている。こうした事情で3年以内に話し合いがまとまらない方は、少なくありません。
遺産分割が終わらないことを理由に、義務違反の過料を科すのは酷だという指摘を受けて用意されたのが、相続人申告登記です。名義変更という結果を求めず、まず相続人であることだけを申し出れば、義務を果たしたと扱う仕組みです。
ただし、遺産分割そのものは当事者どうしの話し合いに委ねられており、期限を区切って強制的に終わらせられる性質のものではありません。遺産分割そのものには期限を設けず、名義変更の義務だけを切り分けて先に果たせるようにする。相続人申告登記は、そうした整理から生まれた制度です。
こんな方は、この記事が参考になります
- ✓相続人が5人以上いて、まだ全員の合意が取れていない
- ✓遺産分割の話し合いが長引いていて、3年の期限に間に合いそうにない
- ✓相続人の中に、連絡が取りにくい人がいる
- ✓期限が近づいてきて、まず何をすればよいのか分からない
話し合いが長引く理由が、誰も住まない実家をどう扱うかで意見が割れているケースもあります。誰も住まない実家、名義変更と売却どちらが先かの記事もあわせてご覧ください。
3. 相続人申告登記で済むこと・済まないこと
この章でわかること 相続人申告登記で済むことと、済まないことの整理
制度の中身を、条文で確認します。
不動産登記法第76条の3第1項
前条第一項の規定により所有権の移転の登記を申請する義務を負う者は、法務省令で定めるところにより、登記官に対し、
所有権の登記名義人について相続が開始した旨及び自らが当該所有権の登記名義人の相続人である旨を申し出ることができる。
不動産登記法第76条の3第2項
前条第一項に規定する期間内に前項の規定による申出をした者は、同条第一項に規定する所有権の取得(当該申出の前にされた遺産の分割によるものを除く。)に係る所有権の移転の登記を申請する義務を履行したものとみなす。
申出をすると、登記官が職権であなたの氏名・住所を登記に付け加えることができるとされ、実務上は付記されます(不動産登記法76条の3第3項)。これで義務は果たしたことになりますが、これは相続人の1人であることの記録にすぎません。不動産を売る、担保に入れるといった権利の変更には使えないため、そのときはあらためて相続登記の申請が必要です。
条文にあるとおり、義務を履行したとみなされるのは「3年の期間内に申出をした者」です。必要書類をそろえて期限内に申出を行えば、基本的な相続登記の申請義務を履行したものとみなされます。期限が迫っている方ほど、まずこの申出を検討する価値があります。
相続人が複数いる場合、申出はそれぞれの相続人が行う必要があります。1人が申告しても、その効果は申告した人にしか及びません。他の相続人の分もまとめて代理で申し出ることはできますが、代理する場合はそれぞれの委任状が必要になります。相続人が連名で申出書を作る方法もあり、その場合は委任状は不要です。
済むこと・済まないことを整理すると、次のようになります。
| 比べる点 | 相続人申告登記 | 相続登記(本登記) |
|---|---|---|
| 目的 | 3年の義務を先に果たす | 不動産の名義そのものを変える |
| 誰が申請するか | 相続人が単独でできる | 登記原因によって異なる。遺産分割による登記は全員の合意が前提。法定相続分による登記は相続人の1人から全員分を申請できる |
| 登記記録の変化 | 相続人の氏名・住所が付け加わる | 所有者の名義が変わる |
| 売却・担保設定 | できない | できる |
| 必要書類 | 比較的少ない | 戸籍一式・遺産分割協議書等が必要 |
| 登録免許税 | かからない | 固定資産評価額の0.4%が原則 |
表のとおり、相続人申告登記は「済ませれば終わり」の手続きではなく、あくまで本登記までの通過点です。2つの手続きは対立するものではなく、順番の関係にあると考えると分かりやすくなります。費用の内訳をより詳しく知りたい方は、相続登記の費用相場を説明した記事もご覧ください。
4. 必要書類・登録免許税・申出先
この章でわかること 必要な書類と申出先、登録免許税の扱い
相続人申告登記の申出に必要なものは、次のとおりです。
- 申出人が相続人であることが分かる戸籍。亡くなった方と申出人のつながりを示す戸籍謄本です。相続人全員分の戸籍を集める必要はありません。
- 申出人の住所を証する書類。原則として住民票などが必要です。ただし、申出書に住民票上の氏名のふりがなと生年月日を記載し、住民基本台帳ネットワークシステムで確認できる場合は省略できます。国外住所など、省略できない場合もあります。
- 申出書。対象の不動産、亡くなった方の氏名・最後の住所、申出人の氏名・住所などを記載します。
- 代理人に依頼する場合は委任状。ご自身で申出をしないときに必要です。
相続登記のように相続人全員の戸籍をたどって相続関係をすべて確定させる必要がなく、自分が相続人の1人であることを示せれば申出ができる点が、本登記との大きな違いです。他の相続人の同意や協力もいりません。
申出先は、対象の不動産の所在地を管轄する登記所です。島根県内でも、松江地方法務局本局、出雲・浜田・益田・西郷の各支局に管轄が分かれます。相続登記のように固定資産評価額に応じた税金を納める必要はなく、登録免許税はかかりません。管轄は不動産の所在地で確認してください。
本登記であれば固定資産評価額を確認し、税率を掛けて登録免許税を計算する作業が必要ですが、相続人申告登記にはこの計算そのものがありません。不動産の評価額を調べる手間がかからない分、準備にかかる時間も短くなります。
申出は、法務局の窓口へ持参するほか、郵送やWebブラウザからのオンラインでも行えます。手続きの詳細は法務省令で定めることになっており(不動産登記法76条の3第6項)、様式や取り扱いは法務局の案内に沿って進めます。
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5. 申出のあと、いずれ必要になる本登記
この章でわかること 遺産分割の成立後に、あらためて必要になる本登記
相続人申告登記をすませても、それで終わりではありません。遺産分割の話し合いがまとまった時点で、あらためて相続登記(本登記)の申請が必要になります。
不動産登記法第76条の3第4項
第一項の規定による申出をした者は、その後の遺産の分割によって所有権を取得したとき(前条第一項前段の規定による登記がされた後に
当該遺産の分割によって所有権を取得したときを除く。)は、
当該遺産の分割の日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。
遺産分割が成立した日から、あらためて3年の期限が始まります。相続人申告登記をしたからといって、この先ずっと名義変更をしなくてよいわけではありません。話し合いがまとまった時点で、次の期限を意識する必要があります。似た規定は、通常の相続登記を先にすませた場合にもあります(不動産登記法76条の2第2項)。
この本登記の際には、相続人全員が合意した遺産分割協議書や、相続人全員の戸籍・印鑑証明書などが必要になります。相続人申告登記の段階では省けた書類を、あらためてそろえることになります。相続人申告登記を先にすませておいても、この本登記の書類をまとめる作業自体が軽くなるわけではありません。
たとえば、相続開始から2年が経った時点で相続人申告登記をすませ、そこからさらに1年後に遺産分割がまとまったとします。この場合、本登記の期限は遺産分割が成立した日から数えて3年後です。相続開始からの3年ではなく、遺産分割の成立日をあらためて起点として数え直す点を、間違えないようにしてください。
6. 向いている場面・向かない場面
この章でわかること 相続人申告登記が向いている場面と、向かない場面
相続人申告登記が向いているのは、次のような場面です。
- 遺産分割の話し合いが長引いていて、3年の期限までにまとまりそうにない
- 相続人の人数が多く、全員の書類をそろえるのに時間がかかっている
- 基本的な申請義務を先に果たしたいが、名義変更まで急いでいない
これらに当てはまる場合、無理に話し合いを急いでまとめようとするより、相続人申告登記で義務を先に果たしておくほうが、落ち着いて話し合いを続けられることがあります。
一方、次のような場面では、相続人申告登記より先に本登記を目指したほうがよいことがあります。不動産を近く売却する予定がある場合です(申告登記だけでは売却できません)。相続人が少なく、遺産分割の話し合いがすでにまとまっている場合も同じです。金融機関の融資など、担保設定が必要な予定がある場合も含まれます。
これらの場合は、相続人申告登記を経由せず、最初から本登記に向けて必要書類をそろえたほうが、手間が少なく済みます。話し合いがまとまっているのであれば、遠回りをする理由はありません。
迷う場面としては、「話し合いは続けているが、いつまとまるか見通せない」というケースがあります。見通しが立たないまま期限だけが迫っている場合は、相続人申告登記で基本的な申請義務を先に果たしつつ、並行して話し合いを続ける進め方が現実的です。
ここまでの手順のうち、申出書の作成や戸籍の請求は、ご自身で進めることもできます。時間はかかりますが、費用を抑えたい場合はご自身で始めていただいて構いません。
ただし、遺産分割の話し合いが並行して続いている場合は、申告登記だけで安心せず、本登記までの見通しを最初に立てておくと、あとになって書類を集め直す手間を減らせます。相続関係が複雑な場合や、相続人の人数が多い場合は、早い段階で相談しておくと選べる進め方が広がります。
司法書士にできること・できないこと
相続人申告登記の申出も、その後の本登記も、書類の作成は司法書士が対応できます。
| できること | できないこと |
|---|---|
| 申出書・戸籍等の準備 | 相続人どうしの話し合いをまとめること |
| 本登記の遺産分割協議書の作成 | 争いになった場合の交渉・訴訟対応 |
| 期限管理を含めた進め方の相談 | 相続税額の計算・申告 |
相続人どうしで意見が対立している場合は、当事務所が窓口となり、提携する弁護士をご紹介します。相続税の計算が必要な場合も、提携する税理士をご紹介できます。
7. よくある質問
この章でわかること 費用・期限・他の相続人の対応についての疑問
Q. 相続人申告登記をしたら、他の相続人も義務を果たしたことになりますか
A. なりません。申出の効果は、申出をした人だけに生じます。他の相続人の分もあわせて申し出ることはできますが、その場合はそれぞれの分をまとめて手続きする形になります。相続人全員が、それぞれ申出を済ませておく必要があります。
Q. 相続人申告登記のあと、遺産分割がまとまらないままだとどうなりますか
A. 必要書類をそろえて期限内に申出を行い、基本的な相続登記の申請義務を履行したものとみなされれば、その状態が続いても申請義務違反の扱いにはなりません。ただし不動産の名義は変わらないままなので、売却や担保設定はできません。固定資産税の納税通知など、名義以外の手続きについては別途の確認が必要になる場合があります。
Q. 相続人申告登記をしたことは、他の相続人に知られますか
A. 登記記録にあなたの氏名・住所が記録されるため、登記事項証明書を取得すれば誰でも確認できます。他の相続人に個別の通知が届くわけではありませんが、記録自体は公開されるものです。
Q. 相続人申告登記の申出を、司法書士に頼むことはできますか
A. できます。委任状をいただければ、書類の作成から申出まで代理で進められます。戸籍の収集からまとめてご依頼いただくことも可能です。
Q. 相続人申告登記の申出自体に、いつまでという期限はありますか
A. 相続登記の基本的な申請義務を相続人申告登記で果たすには、相続登記と同じ3年の期限内に申出をする必要があります。必要書類をそろえたうえで、期限が近づく前に申出を進めてください。
Q. 相続した不動産が複数あるとき、申出はどうすればよいですか
A. 不動産が複数ある場合の申出のまとめ方は、対象となる不動産の状況によって変わることがあります。複数の不動産をお持ちの場合は、申出の前に管轄の法務局へ確認しておくと、二度手間を避けられます。
8. まとめ
- 相続人申告登記は、相続登記の3年の義務だけを先に果たす制度です
- 不動産の名義は変わらず、売却や担保設定にはあらためて相続登記(本登記)が必要です
- 必要書類は少なく、登録免許税もかかりません
- 遺産分割がまとまったら、その日から3年以内に本登記を申請する必要があります
- 話し合いの見通しが立たないまま期限が近づいている場合は、まず相続人申告登記を検討してください
相続人申告登記は、遺産分割の結論を急がせるための制度ではありません。話し合いに時間がかかっている事情はそのままに、基本的な申請義務を先に果たせる手続きです。まずは、対象の不動産と相続人の範囲を確認するところから始めてください。
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相続登記の期限そのものについては、こちらをご確認ください。
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本登記にかかる費用の内訳は、こちらにまとめています。
遺産分割が長引く理由が、実家の扱いにある場合はこちらも参考になります。
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判断に迷ったときは
「相続人が何人いるのか、まだ把握できていない」という段階でも構いません。戸籍を一緒にたどるところからお手伝いします。準備するものは、特にありません。
相談だけで終わっても構いません。話してみて、相続人申告登記と本登記のどちらを先にすべきか、見えてくることもあります。相続人の人数や不動産の数によって、進め方の相談内容は変わります。
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